「思ったより元気そう」 事故で娘を失った母が苦しんだ善意の言葉
犯罪被害者が置かれている状況について理解を深める講演会があった。交通事故で中学1年生の次女を失った母親は、事故から17年の歩みを踏まえて、「被害者支援に正しい答えはない。できる範囲で寄り添ってほしい」と訴えた。12月1日までは「犯罪被害者週間」で、啓発イベントが各地で開かれている。
16日に名古屋市主催の「犯罪被害を学ぶ会」で講演したのは、佐藤逸代さん(60)。2005年7月、次女の有希さん(当時12)が市内の交差点で信号待ちをしていた際、赤信号を見逃して進入した乗用車の衝突事故に巻き込まれて亡くなった。運転手は執行猶予付きの禁錮3年の刑が確定した。
現実を受け入れられないまま通夜を迎え、「(有希さんの)肉体が滅びていくということを受け入れるのが本当に苦しかった」と振り返る。有希さんがいないのに時間は過ぎ、自分は「母親失格」なのではと責める――。折り合いがつかないまま2~3カ月が過ぎ、その間は家から出られなかったという。
周囲の言葉にも傷ついた。気丈に振る舞っていると、「思ったより元気そう。もっと落ち込んでるかと思った」と声をかけられた。「強いね、私だったら狂い死にしてるわ」と言われ、「狂って死ねたら、どんなに楽だろうか」と思ったこともある。善意から来る言葉だからこそ言い返せなかったという。
一方で、心の葛藤が軽くなるような声かけもあった。「ごめんね。私にはあなたの気持ちがわからない」。佐藤さんは「できる範囲で寄り添ってくれるみなさんがいたことで、私は生かされ、生きてこられた」と話した。
あるべき被害者支援とは何か。佐藤さんは当事者の立場から、「体験した人にしか分からない痛みや苦しみ、つらさがある」という。急にその立場に置かれれば混乱で支援を拒否する人も少なくないし、家族内で意見が異なることもある。「付かず離れず継続的な支援を」と呼びかけた。
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