第12回岸田首相の「理想」と「現実」 核なき世界をどう考えれば良いのか?

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聞き手 編集委員・佐藤武嗣
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 岸田政権は年内に外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」など三つの文書を改定します。今回の改定は日本の安全保障の大転換になるかもしれません。改定に関わる関係者、有識者に様々な視点から聞きました。

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 戦争被爆地・広島選出として「核なき世界」へ前進させたい岸田文雄首相。一方で、ロシアによる核使用の脅しや北朝鮮の動向など、核をめぐる安全保障環境は悪化し、核による抑止力強化を訴える動きも強まっている。

 「核なき世界」という理想と、「核抑止」という現実をどう結びつければよいのか。核を含む軍縮・軍備管理に詳しい秋山信将・一橋大教授に聞いた。

 ――岸田首相が8月、日本の首相として初めて核不拡散条約(NPT)再検討会議に参加して演説しました。どのように評価しますか。

 「政府のトップによるNPT再検討会議への出席は、世界的にもまれなケースだ。核兵器の使用への懸念が高まるなか、人類や国際社会の向かうべき方向は核軍縮だ、との意欲を示したことは重要で評価したい」

 「日本が(核軍縮・不拡散を目指す)NPT体制の守護者である、と強調したことは大事だ。そうなると、日本は何をするのかが問われてくる。核軍縮を追求するという文脈で、国連に資金を出し、政治指導者や若い人たちに被爆の実相を見てもらうというのも、貢献のあり方だろう」

なぜ日本は核禁条約の締約国会議にオブザーバー参加もしないのか?

 ――日本は核兵器禁止条約も批准せず、締約国会議へのオブザーバー参加もしていません。

 「締約国会議にオブザーバー参加しながら、条約自体には入らないと明言する国もあるが、それは評価されるべき態度なのか考えさせられる。オブザーバー参加したドイツなどは米国と『核共有』しており、核の結びつきが強い。(米国が核攻撃を含む抑止力を提供する)拡大核抑止が制度的に担保されているからこそ、安心してオブザーバー参加し、違いを出せる面がある」

 ――日本は違うと?

 「日本の場合、日本防衛を規定した日米安全保障条約第5条があるが、米国の核兵器運用を協議するメカニズムがなく、拡大核抑止のコミットメントに対する信頼性はドイツなどより弱い。こうした日本の位置づけは、核禁条約に関与することによって拡大核抑止の信頼性が揺らぐ懸念がより高くなる。そのため、日本は(オブザーバー参加に)慎重な態度を取らざるを得ないのではないか」

 「核軍縮は人類共通の目標であり、日本政府も、核禁条約と目的は共有していると発信している。(外交・広報戦略で国際世論に働きかける)パブリック・ディプロマシーも大事だが、それだけで核兵器がなくなるわけではない。日本政府には地域の核リスク削減の取り組みなど、より実質的な動きをみせてほしい」

 ――ロシアによるウクライナ

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