高級時計オーデマピゲ(AP)のフランソワアンリ・ベナミアス最高経営責任者(CEO)が来日し、朝日新聞のインタビューに応じた。1964年にパリで生まれ、プロゴルファーからファッション業界に転じて94年にAPに入社した異色のキャリアの持ち主だ。2013年にCEOに就任すると、ブランドの業績を大幅に伸ばした。ラグジュアリースポーツウォッチの代表格ロイヤルオークは発表から50周年を経て現在、空前の人気を誇るが、ベナミアス氏は23年末で退任の意向を表明している。これまでの功績や今後の道について聞いた。
――アスリートからラグジュアリーの世界に転じた理由は?
私はゴルフプレーヤーとして世界ナンバー1になりたかったが、実際には世界ランクで2位でもなかったし、100位どころか千位ですらなかった。そんな理由から、友人の勧めでファッション界に転じ、ジョルジオ・アルマーニやジャンフランコ・フェレなどで経験を積みました。そこで業界の面白さや、自分が他の人とは違う嗅覚(きゅうかく)や才能を持っているのではないかと気づいたのです。
――どんな面白さや才能でしょうか?
面白いと思ったのは、ラグジュアリーブランドの飛び抜けた職人技術です。自分の才能は、他の人よりも先見の明があるということ。トレンドが見えるのです。そして、プロモーションとセールスの両方ができること。
たとえば北米支社のCEOを務めていた05年に、私はラッパーのジェイ・Zとの協業を実現しました。当時は時計ブランドどころか、ラグジュアリーの世界で、どのブランドもヒップホップの世界と関係を構築していませんでしたが、私はアメリカの黒人文化の広がりを実感して、今後、全世界的にヒップホップが受け入れられるだろうと思っていたのです。
もう一つは、CEOになってから特別な顧客向けの店舗を作ったことも大きかった。店の外観ではなく、内部にお金をかけるようにしたのです。場合によっては家賃の高い路面店よりも、商業施設内に店舗を構えるほうがいいと考えました。当時、時計ブランドでそういうことをしているところはなかった。この二つの決断は今から考えると大きかった。
空前の高級時計ブームは予想した?その答えは…
――CEO就任から現在まで…