第36回寂聴さんは小説に書かなかった 井上光晴さんとの恋、そのわけは?

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岡田匠
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井上荒野さんに聞く⑥

 瀬戸内寂聴さんは自らの体験を隠すことなく書いてきた。ただ、書かなかったこともある。その一つが井上光晴さんとの関係だ。長女の井上荒野(あれの)さん(61)が『あちらにいる鬼』を書くと報告してから、寂聴さんは光晴さんとの関係を書くようになったという。

 ――寂聴さんは、小説のモデルとして書かれることをどう思っていましたか?

 自分のことを書いてくれてうれしいとか、小説に出ることに喜んでいたのではなく、父との恋愛が小説として、かたちになったことを喜んでくださったように思います。書いた私が言うのもおかしいんですけどね。

 私が「3人の関係を書いていいですか」と伝えたあと、寂聴さんがいきなり、父との関係をエッセーなどで書いたり言ったりするようになりました。父との関係を断ち切るために出家した、とはっきり言うようにもなりましたよね。

 ――『比叡』(1979年)や『草筏(くさいかだ)』(94年)に光晴さんらしい男性を書いていますが、わからないように隠しています。

 井上光晴、あるいは井上荒野の父と書くようになったのは、私が『あちらにいる鬼』を書くことをお伝えしてからですね。母が亡くなったことも影響しているかもしれません。はっきりと、初めて書いたのは、朝日新聞のエッセーでしょうね。

 ――連載「寂聴 残された日々」の13回目、2016年6月に「私の情人」と書いています。

小説『あちらにいる鬼』は寂聴さんも読み、感想を井上荒野さんに伝えました。記事の後半で語られます。

 それだと思います。『あちら…

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