明治日本の産業革命遺産、ユネスコに報告書 「誠実に対応」姿勢維持
長崎県の端島炭坑(軍艦島)などからなる世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」について、政府は11月30日に報告書をユネスコ(国連教育科学文化機関)に提出した。林芳正外相が2日の閣議後会見で明らかにした。世界遺産委員会が昨年、朝鮮半島などから連行され労働を強いられた人々についての日本の説明が不十分だとして「強い遺憾を示す」とする決議を採択したが、日本は今回の報告書でも「誠実に履行している」との姿勢を維持した。
決議は日本政府に対し、今年12月1日までに報告書で今後の対応について説明するよう求めていた。内閣官房の担当者によると、今回の報告書では、徴用は全ての日本国民に適用されたとし、朝鮮半島出身者を日本国民として扱ったとする従来の説明を繰り返したという。報告書はユネスコが近く公開し、来年の世界遺産委で審議される見通し。
産業革命遺産は2015年に世界文化遺産に登録された。韓国政府は一部の資産で朝鮮半島出身者が「強制労働」をさせられたと主張し、登録が難航した。登録が決まった世界遺産委で、日本側は「犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む」と表明。20年に「産業遺産情報センター」を東京都内に開設したが、朝鮮半島出身の徴用工への差別は「聞いたことがない」とする証言を展示し、韓国側が抗議した経緯がある。
世界文化遺産登録を目指して日本が今年2月に推薦した佐渡金山遺跡(新潟県)をめぐっても、韓国側は「日本政府が韓国人強制労働の歴史に背を向けたまま、世界遺産登録を推薦した」と抗議。産業革命遺産にも言及し、日本の説明が不十分だとして「日本が自ら約束した後続措置を忠実に履行するよう強く求める」としていた。
林外相は報告書について、「(日本が)決議を真摯(しんし)に受け止め、誠実に対応してきていることを明確に示すものとなっている。今後も展示の一層の充実に取り組む方針だ」と話した。
2日の閣議後会見で、報告書の佐渡金山登録への影響について問われた永岡桂子文部科学相は「各関係省庁と綿密に連絡を取り合い、しっかりと進めさせていただきたい」と述べるにとどめた。(神宮桃子)
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