異端の初手「1六歩」 中村修九段60歳、1545局で初めての理由
盤上という名の劇場は初めの一手から棋士の想(おも)いを語り始める。11月16日、中村修九段(60)は第81期名人戦・B級2組順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)6回戦・高見泰地七段(29)戦で珍しい初手▲1六歩を指した。異端の選択肢には、還暦を迎えた棋士の決意が込められていた。
朝、記録係が対局開始を告げると先手の中村は眼鏡を外して入念に拭いた。
気息を整え、両目に鋭い光を宿した後、右手は盤上右端の歩へ。初手は型破りの▲1六歩だった。
「なんとなく。気分転換です。(ユーチューブなどで)中継されるんだよな~とか…注目される将棋になっていたので」
局後に照れ笑いを浮かべたが、棋士は順位戦の初手を気分転換で指したりはしない。込められたのは決意表明だった。
棋士ひとりひとりの物語を伝える連載企画「純情順位戦」。北野新太記者がこの日の主人公、中村修九段の対局開始に目をこらしていると、思わぬ初手が飛び出しました。これをきっかけに初手について考えてみました。
中村は17歳で棋士になり…