サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会。日本は強豪スペインを破り、決勝トーナメント進出を決めた。ハリファ国際競技場では試合後、ピッチの浅野拓磨選手がスタンドに向かって手を振った。
その先には涙で目をはらした西田勇人さん(35)がいた。
西田さんは、ドイツのボーフムに所属する浅野選手が、帰国時に通うキックボクシングジムのトレーナーを務める。
ドイツ戦の活躍を日本で観戦し、心が震えた。そのまま、飛行機を予約する。ホテルはどこも高い。0泊3日の予定で、この試合のために駆けつけた。
浅野選手と知り合ったのは今年初め。だが10月ごろになると、連絡をしても素っ気なくなった。代表の選考が近づいていた。「あきらかにつらそうで、いてもたってもいられなくなった」
西田さんは、ボーフムへ飛ぶ。たった1時間のやりとり。それでも浅野選手の表情は明るくなっていった。そして言った。「今は『ありがとう』とは言いません。W杯で立つ姿を見せたい。それが僕なりの感謝です」
西田さんはこの日、カタールの地で当時の約束を思い出した。「この瞬間が見られれば十分。夢をかなえてくれた」