わずか数分間、たった5球のやりとりは、ルーキーにとって「一生の宝。一生の経験」になった。
9月19日、ベルーナドーム。埼玉西武ライオンズのドラフト3位新人、古賀悠斗捕手(23)=中大=は重大な役割を任された。
マウンドに上がるのは、内海哲也(40)。この日が引退試合だった。
試合前のブルペンから、明らかに球場の雰囲気がいつもと違った。投球練習で1球投げるごとに温かい拍手が降り注ぐ。23歳はさすがに、「緊張した」。
1軍で内海が先発するのは、これが今季3試合目だった。そのすべてで先発マスクを任されてきた。
左腕は試合前、1球目に何を投げるか決めるタイプではない。サインは古賀がまかされていた。
ただ、この日は一生に一度の現役最後の日。「どうしますか?」と試合前に聞いた。
内海の返答は「いつも通りで」だった。
打者1人に投げて、交代する予定だった。この1人を塁に出すわけにはいかない。楽天の1番山崎剛に対して、初球はスライダーを要求した。
内海は首を振った。
選んだのは直球。2球目以降…