有名シェフから注文相次ぐ 漁師の藤本純一さん
来島海峡に臨む愛媛県今治市の大島。島の漁師、藤本純一さん(40)のもとには、全国の有名料理店から魚の注文が相次ぎ、「半年待ち」も珍しくないという。人気の秘密は、とれた魚を「最高の素材」へと変える独自の処理方法。長年かけてノウハウを培った。
――漁師の4代目として育ちました
物心ついた頃から、海や魚が好きでした。幼稚園の頃には港でチヌやマコガレイを釣ってました。祖父が「何でもやれ」という方針で育ててくれました。小学高学年になると、本格的に漁を手伝い始めました。漁の基本は、父や祖父から習いました。
――魚の見分け方はどうやって身につけたのですか
漁師の家庭では、売り物にならずに余った魚を食べることが多いのですが、私にはとれた中で一番いいものを食べさせてくれました。毎日食べていると、日によっておいしい時とそうでない時がある。「何が違うんだろう」と自分なりに考え、締め方や保存方法などおいしく食べる方法を色々試すようになりました。
――料理店と取引を始めたきっかけは
28歳の時、大阪・北新地のシェフに私がとったタイを使ってもらう機会がありました。そこで評価され、料理店との取引が一気に増えました。営業は一切していません。顧客となった料理人の方が、別の料理人を紹介してくれています。今では和食、洋食、中華など約200軒の料理店と取引があります。特にタイとマナガツオについては、高い評価をもらっています。
――魚はすぐ出荷しないそうですね
とれた直後の魚は網の中で暴れたせいでダメージを受けている。この状態で出荷すると臭みも出やすく腐敗しやすい。リラックスさせる必要があるので、いけすに一晩生かした状態で置いておきます。締める直前にいけすからすくいます。
締めた後も大事。出荷するまで氷水の中にしばらく入れておく。つける水温や時間によって、味が変わります。ちゃんと締めて温度管理すれば魚はすぐに腐るものではないです。うちで扱った魚は、1週間までは生食が可能です。でも、今のやり方に満足せず、今も試行錯誤の日々です。
――注文はどのように受けていますか
魚がとれたタイミングで顧客に連絡を入れ、「欲しい」と言われたら送ります。今は注文がいっぱいで2~3カ月、新規の方は半年待ちの方もいます。取引先の料理店には必ず、私自身が食べに行きます。シェフの好みを知るだけでなく、僕の魚をお客さんが喜んで食べてくれるのを見るとうれしい。魚をとるだけでなく、食べることも大好き。好きなことをやっていたら、お客が増えていきました。
――今後の目標は
私が培ったノウハウを海外で試したいです。魚を食べる国はたくさんありますが、生食の文化はない。日本のようにきちんと締めて処理しないから。ノウハウを伝えられれば世界中でおいしい魚が食べられます。人材をしっかり育てることが出来れば、十分出来ると思います。
先月下旬、松山市内のスーパーに鮮魚店をオープンしました。たくさんの人にいい魚を食べて欲しいと考えたからです。小さい頃においしい魚を食べた人は、大人になっても食べてくれる。魚食の普及にも役立てればうれしいです。(井潟克弘)
ふじもと・じゅんいち 1982年、今治市生まれ。高校卒業と同時に18歳から漁師になる。2010年、家族で経営する鮮魚卸売会社「蛭子丸」を設立。21年、フランスのレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ2021」日本版で、独自の挑戦をしている生産者らに贈られる「テロワール賞」を受賞した。
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