その白さに、はっと胸をつかれるような「かぶら」が12月のお菓子です。
冬の訪れを告げる京野菜を薯蕷(じょうよ)まんじゅうで作っています。生地に使う丹波のツクネイモも新芋になりました。千枚漬けでおなじみですが聖護院カブの肉質はきめ細かくて、その朝に蒸し上げたまんじゅうの肌のぬくもりとも重なります。
作り手が古典をどう表現するかを味わう楽しみは、和菓子も同じ。この「かぶら」を「鍵善良房」の今西善也さんは、愛らしく、とはいえ作り込まず抽象的に仕上げたといいます。丸みや色合いなど細部を吟味するところに、お店のカラーが出ています。カブの茎に見立てているのはこなし生地ですが、みずみずしい緑が白によく映えます。
京都と野菜といえば、江戸中期の画家・伊藤若冲は生家が錦小路の青物問屋でした。生涯にわたって野菜を題材に選んでいることを、福田美術館の岡田秀之学芸課長は「幼い頃から身近にあって、商品として自分の生活を支えてくれる野菜は、若冲にとって特別に大事な存在でした」と話します。たとえば同館所蔵の最初期作とされる「蕪(かぶ)に双鶏図」で、畑のカブの葉は端が枯れて虫食いの穴が無数にあいています。「見たままではなく、そう描きたかったという命の表現です。どんな思いを込めたのでしょうか」
若冲が生きたのは、和菓子の美意識が花開くのと同じ時代でした。小さなものを愛を持って見つめるまなざしは、どこか共通するように思えます。(編集委員・長沢美津子)
12月のおかし
銘 かぶら 薯蕷を京都では上用とも書き、上等なまんじゅうの代名詞。中は小豆のこしあんで白と黒のコントラストが美しい。
協力:今西善也 京都祇園町「鍵善良房」15代主人。
協力:今西善也 京都祇園町「鍵善良房」15代主人。
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