大昔の病原体がひもとく人間と感染症の歴史 ゲノム解析で新たな発見
大昔の病原体のDNAを読み解く「古病原体ゲノム学」が、人間と感染症の歴史に新たな光を当てている。絶滅した古代人類のゲノム(全遺伝情報)を解読し、今年のノーベル医学生理学賞が決まったスバンテ・ペーボ氏の業績も、近年の技術革新とともに、新発見に大きく寄与している。(野口憲太)
黒死病、結核、天然痘… 盛んになる古病原体ゲノム学
中世ヨーロッパで猛威を振るった「黒死病」。その原因となったペスト菌は中央アジアからもたらされた――。今年6月、そんな研究成果を独マックス・プランク進化人類学研究所などのチームが報告した。
現在のキルギス北部で発掘された人骨は、1338~39年の「疫病」で亡くなったとされていた。チームは、この人骨から採取した病原体のDNAの断片をつなぎ合わせ、ほぼ完全な病原体のゲノムを再構成、ペスト菌と同定した。このゲノムを英国の墓地の黒死病犠牲者からのペスト菌のゲノムなどと比較。その結果、中世ヨーロッパで流行した黒死病のペスト菌は14世紀前半に中央アジアのペスト菌から派生したものと推定された。
チームを率いたヨハネス・クラウス教授は、2011年に英国の墓地の人骨からペスト菌のゲノムを検出して論文で報告、研究の新しい方向性を示した。以降、大昔の病原体のDNAを解読し、病原体の進化や人間社会の歴史をひもとく「古病原体ゲノム学」と呼ばれる分野の研究成果が盛んに示されている。
カナダのチームは、6世紀に…