【COP15通信】明記された「若者」の意思決定権 新たな出発点に

有料記事

[PR]

 失われていく生物多様性をどう守り、回復させていくか。カナダ・モントリオールで始まる国連の生物多様性条約締約国会議(COP15)には、多くの若者たちも参加します。日本から参加する一般社団法人CONDのメンバーによる「COP15通信」を随時掲載します。

■12月28日 明記された「若者」の意思決定権 新たな出発点に(矢動丸琴子)

 2週間にわたって開催された国連の生物多様性条約締約国会議(COP15)が幕をとじました。

 終了予定日の前日12月18日、本来であれば午後6時から始まる予定だった本会議は、開始が翌19日の午前2時45分ごろまでずれ込みました。

 世界中から集まった何千人もの市民社会の代表者、政府代表団は皆、生物多様性保全の次期世界目標を作るために4年以上かけて議論してきました。新しい「昆明-モントリオール目標」の採択の瞬間は一瞬で、予想していたよりもとてもあっけないものでした。

 この本会議が終わった頃には、すでに早朝4時を回っていました。世界共通の重要な目標の最終的な決定という歴史的瞬間に居合わせたのは人生で初めてでしたし、早朝まで会議場にいたのも初めての経験でした。

 新目標には、2030年までに地球の海洋および陸域の少なくとも30%を公平な方法で完全に保全する、通称「30by30」などの23個の具体的な行動目標が含まれます。達成することで、50年までに「人と自然が共生する世界」の実現を目指します。

 そして、新目標は、おそらく過去のどんな協定よりも、若者の役割を認めているのではないかと思います。22番目の行動目標に、若者、女性、先住民族などあらゆるステークホルダーの権利確保に関する行動目標が含まれています。若者などの意思決定への権利確保を明示する行動目標は、前身の愛知目標には含まれていませんでした。

 私たちは今、「若者」というグループの一員として活動し、COP15にも「若者」という分類の登録バッジで参加しました。

 ですが、同時に社会の中では20歳を超えている「大人」でもあります。だからこそ、新目標の実行期間は、私たちが主役となって、責任をもって目標達成に向けた行動を起こしていかなければなりません。

 一番重要なことは、採択された新目標を「文書に書いた理想」として終わらせず、本当に自然や生物多様性を守るために役立つよう、政府や他の市民社会組織と協力して、これから真剣に取り組むことです。

 一方で、歴史的瞬間に居合わせたうれしさを感じつつも、私は今回のCOP15を通して、しばしば「居心地の悪さ」をひそかに感じていました。

 私たちCONDのメンバーは、朝早くから夜遅くまで、懸命にCOP15の場で活動しました。

 若者間で行われるサイドイベントや、非公開のミーティングにも参加し、各参加者からの意見を聞く機会も多くありました。また、活動の一つとして、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アフリカ、東南アジアなど世界中から集まった若者などに短いインタビューをし、会期中に16本の動画を撮影しました。

 その中で、彼らの求める資金計画と実際の決定とのギャップや、目標の野心の低さに対する発言、自国で起こる環境活動家の殺害などについても聞きました。その度に、日本と世界の問題の違いや事態の深刻さを再認識しました。

 たとえば、世界には環境活動を命がけで行い、時に命を落とされてしまう人がいるという現実があります。信じられるでしょうか。

 私は、自分が直接責められているわけではないにもかかわらず、日本という先進国で、比較的やりたいことが自由にできる環境で生まれ育った1人の若者として、罪悪感を持たずにはいられなかったのです。

 ちょうどこの原稿を書いている最中に、私たちが行っていたクラウドファンディングの達成の連絡がきました。渡航費用などにあてようと、無謀とも思えた300万円の目標金額が集まりました。196人の方からご支援をいただいていました。(最終的には 311万円 延べ200人以上の方からのご支援が受けられました)

 私は涙が止まりませんでした。

 達成できて支援金を受け取れること以上に、私たちを応援し、活動を支えてくれる方がたくさんいることに感動せずにはいられなかったからです。とても言葉で表現できるような心情ではありませんでした。

 正直なところ、「若者に対する期待」にプレッシャーを感じることももちろんあります。気が休まらない場面も多々あります。

 ですが、私たちのやりたいことを純粋に応援してくださり、励まし、力になってくださる方がこんなにもいるなんて、本当に私たちは幸せだと思いました。だからこそ、諦めることも途中で投げ出すこともできないのです。

 新目標の採択は、ゴールではなく、新たなスタートです。世代や国境を越えた強固なパートナーシップによる取り組みが不可欠であると認識しています。

 「私たちの次の10年」の本番はここからです。

■12月18日 生物多様性回復へ深める連携 「科学者は翻訳者」(高田健司)

 国連の生物多様性会議(COP15)では交渉以外にもサイドイベントが開かれています。会場には、企業フォーラムやビジネスに関するサイドイベントなどに参加する、企業の方々が多くなってきました。

 これから企業も含めて生物多様性保全に向けた取り組みを進めていく必要があります。これまでの生物多様性会議に比べて、企業の数も多く、日本からは30社以上ほどが参加しているようです。

 私がCOP15に参加した理由のひとつに、生物多様性保全の枠組みに科学をどう生かすか、科学者がどう貢献するかを知りたいという思いがありました。

 現在私は、博士課程で生態系の基盤となるサンゴを対象に、分布域の特定や地域間のつながりを推定する研究をしています。将来は、自分の研究で生物の保全に貢献したいと思っています。

 そのため、12日に会場で開かれた、第5回生物多様性科学政策フォーラムを楽しみにしていました。

 このフォーラムは、科学や技術、新しい切り口がポスト2020枠組みの効果的な実施にどのように貢献できるかをテーマにしていました。

 生態系の復元と機能回復を効果的に測定・達成する方法などは以前から科学者が関わっていた取り組みです。それだけでなく、今後は企業の生物多様性への影響評価のために科学者コミュニティーがどのように関わっていくべきか、条約や政策に科学的な知見を盛り込むためにはどうすればよいかなど、科学者が民間や政府と連携していくことの重要性についても発表が行われていました。

 インドの研究者は「条約の実施に向けた意思決定で、各国が科学的助言を求めることは必要不可欠だ。科学者と先住民族や地域コミュニティー、NGO、政府、民間企業の更なる協力が生物多様性を回復していくための突破口になるに違いない。科学者は翻訳者としての役割を担っているのだから」と話しました。

 国際的な目標を決めるとき、各国や地域の利益や思惑に基づいた議論が進められることが多いですが、生物や生態系の保全を第一に考慮すれば、何よりも科学的な知識が最も明確な指標となります。

 むしろ、科学的な知識を使わずに根拠のない議論をしても、将来に生き物や生態系を残していけるとは思えません。

 わかりやすい例が、日本の沖縄・辺野古です。基地建設にともなう辺野古の埋め立ては、現在でこそ生物多様性の観点からは不適切であると言われていますが、その重要性が明らかになったのは20年ほど前からです。

 日本生態学会の調査によると、辺野古(大浦湾)で記録された海域生物は5334種にのぼり、そのうち262種は絶滅危惧種でした。非常に多様性に富んだ場所だということがわかりました。

 それまで、調査がほとんど行われていなかったため、不十分な評価の下、埋め立てが始められてしまいました。生物や生態系の現状をしっかりと把握し、適切な評価をしていくことが、生物多様性の保全、ひいてはポスト2020枠組みを達成していくための最初の基盤となります。

 ポスト2020枠組みに取り組んでいく上で、科学者の連携がますます必要であるように感じます。例えば、ポスト2020枠組みに盛り込まれている「30by30」という目標です。2030年までに陸域と海域の少なくとも30%を保全することを目的としていますが、その指標となる生物の多様度や環境データなどの科学的根拠は十分なのでしょうか。

 少なくとも、日本の海域に関しては到底足りていません。これから科学者のさらなる連携により、特に深海などの知見の少ない地域の調査を進めていくことが30by30の達成に役立つと期待されています。

 フォーラムの中で、YESS(Young Ecosystem Service Specialists)という生態学を学ぶ若手研究者から構成される団体に所属するブラジル人と話す機会がありました。彼も博士課程に在籍しながら、COP15やIPBES(生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)の会議に参加し、科学者として政策に関わる活動をしていました。

 彼は「早い段階で国際会議の場で多くの科学者に出会い、政策の決定事項を追うことは、研究者としても、たくさんの興味関心を引き出してくれる重要な機会になると思う」と話してくれました。研究活動を続けながら、条約の交渉や政策に関わることは、博士課程の私にとって、とても大変なことです。同世代が活躍していることを知り、負けていられないという気持ちです。

 まだまだ続くCOP15の中で、これからも刺激的な経験ができるのを楽しみに一層頑張りたいと思います。

■12月15日 歓声あふれるゴールを!ラップに乗せた進展への願い(芝崎瑞穂)

 国連の生物多様性会議(COP15)の開幕から4日目となった12月10日、交渉が続く会場の近くで行進が行われました。私たちも生物多様性条約における公式な若者団体「Global Youth Biodiversity Network」(GYBN)のメンバーと共に参加しました。

 「生物多様性と人権」をキーワードに行われた今回の行進には、ユースのみならず、先住民族グループや環境保護活動に取り組む市民団体など3500人以上が参加し、大きな注目を集めました。

 20カ国以上からなるGYBNの参加者たちはカラフルなリボンを手に握りしめ、“stop the same!”(同じことを繰り返さないで!)など思い思いのメッセージが書かれた段ボールのプラカードを掲げ行進しました。私たちの生活基盤を支える生物多様性を守るためにも、これ以上同じことを繰り返さないという意志が必要であるという思いが込められています。

 “What do we want?” (私たちが求めるものは?)との呼びかけに、全員が “Right and Equity Now”(権利と衡平を今すぐに)と大声で答えました。

 2年遅れで開幕したCOP15ですが数日経った今でも、その議論は遅々として進まず、ユースの間にも失望の色が浮かんでいます。ラップの音楽に乗せて発せられるメッセージには、その軽快なリズムとは裏腹に、ユースから各国のリーダーに求める切実な思いが込められています。

 今回のCOP15では、さまざまな場面でRight(権利)という言葉をよく耳にします。

 今回の行進は先住民族グループの代表者たちが率いました。COP15で最終合意される予定で、30年までの国際目標である「ポスト2020生物多様性枠組み」に、先住民族の主権や土地の所有権などが必ず含まれなければならないというメッセージです。

 先住民族の管理する土地は世界の20%しかありません。一方、その土地には地球に残る生物多様性の80%が集まっているとの調査結果があります。

 とはいえ、生物多様性にとって重要な土地だからといって、保護区として自然だけを守ればいいというものでもありません。カナダの先住民族の男性がサイドイベントの中で発表していたとても印象的な言葉があります。

 「再生可能エネルギーを導入することで、環境にどれだけ良いかを測る指標はあるが、私たちが森林を維持・管理してきたことが、どれだけ環境保全に貢献したかを測ってくれる指標はないのだ」

 ポスト2020枠組みの中で掲げられているのは、前身の愛知目標で日本が提唱した「人と自然が共生できる社会の実現」です。

 生物多様性という言葉からは、自然を守ればいいという印象を持たれやすいですが、実は自然だけではなく、その自然を守る人々の暮らしや権利、知恵などをも同時に守っていく必要があります。

 期限までになんとか交渉を終えようとする中で、ユースや先住民族をはじめとするオブザーバーの意見を届ける場は少なくなっています。そんな中行われた今回の行進は、市民社会が一丸となって各国のリーダーたちにメッセージを伝える場になったのではないでしょうか。

 行進を終え会場に戻ると、大画面に映し出されたサッカーワールドカップで盛り上がる大人たちがいました。試合に勝ったサポーターからは歓声が、負けたサポーターからは嘆声が聞こえました。

 ポスト2020目標が採択される時には、会場には歓声だけがあふれる、そんな目標でなければならないのです。19日までの限られた残りの交渉期間の中で、各国のリーダーたちがどのように交渉を続けていくのか見守りたいと思います。

■12月12日 コロナや花粉被害が示す糸口 私たちと生物多様性(豊島亮、矢動丸琴子)

 今回、国連の生物多様性条約締約国会議(COP15)の参加登録をする会場では、会議参加者に抗原検査キット、マスク、消毒液を無料で配布しています。会議場に入る際は、抗原検査で陰性の結果を持参しなければ入場できません。

 会議場内でもマスクの着用は義務付けられていて、至る所にマスク着用の貼り紙がありました。先月エジプトであった気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)ではあまり新型コロナウイルス対策がされていなかったと聞いたため、COP15のコロナ対策の入念さがよくわかります。

 実は、人間の健康と生物多様性の損失は密接に関わっています。

 たとえば、世界を揺るがせ…

この記事は有料記事です。残り4854文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

【期間中何度でも15%OFF】朝日新聞モールクーポンプレゼント