結婚していないカップルの性交渉を禁止する刑法改正案が、インドネシアで可決されました。違反した場合、最長で禁錮1年の刑が科され、外国人にも適用されます。今回の改正には、どのような背景があり、今後どうなっていくのか。インドネシア情勢に詳しいアジア経済研究所の川村晃一主任研究員に聞きました。
――刑法改正に注目が集まっています。
婚外交渉や未婚のままの同居が禁止となります。世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアでは、これまでも、社会通念上するべきではないという考え方が日本や欧米に比べて浸透していました。しかし、明文化されたのは新たな動きです。外国人にも適用されますが、通報できるのは近親者に限られるため、滞在や観光で訪れる日本人らにはあまり影響はないでしょう。
――今回の改正の問題点について、どう見ていますか。
婚外交渉や未婚のままの同居の禁止が注目されがちですが、もっと大きな視点でとらえる必要があります。思想の自由や表現の自由、報道の自由といった基本権にかかわるものも刑罰の対象となりました。大統領への「侮辱」や、国家機関に対する「冒瀆(ぼうとく)」、偽情報の拡散に対する罪などです。これらも一つの大きな流れの中で出てきた動きと見た方がいいでしょう。
――大きな流れとはどんなものですか。
改正の対象となったのは、オランダの植民地時代につくられた「刑法典」です。1998年に民主化した後、欧米などから自由な価値観が流入する一方、イスラム教保守派の影響力が強まってきました。社会的な分断が強まる中、ジョコ政権下では対立を抑えるという名目のもと、基本的な人権よりも、政治的な安定を維持することが優先されてきました。特に、2017年ごろから反政府的な動きに対する取り締まりが厳しくなっており、こうした流れが背景にあるとみられます。つまり、「民主」より政治や社会の安定を取ったということでしょう。
――民主化の流れに逆行するようにも見えます。
民主化した後、基本権を縛る…