「産後パパ育休」制度が10月に始まりました。子どもの生後8週以内に2回まで育休が取得できる新制度は、男性が育休を取る起爆剤として期待されています。でも、今の日本で男性がスムーズに育休を取得することはできるのでしょうか。「男性と育休」を考えました。
上司「奥さん1人でできないのはおかしい」
都内の男性(46)は昨年、退職を余儀なくされた。7カ月の育休から復帰後、会社に居場所はなかった。
経理部門で働いていた3年前、妻の第2子妊娠がわかった。妻と当時2歳だった長男は体が弱く、男性は定時で帰れる「時短勤務」を続けていた。「妻の負担を考えれば、育休を取得しないと家庭が回らない」と思った。
人事部からは「ぜひ取得を」と言われたが、50歳代の女性上司は「奥さん1人で子育てができないのはおかしい」と言った。育休制度の趣旨を説明しても、理解してもらえなかった。労働組合などにも相談し、7カ月の育休を取った。
復職後、その上司に「あんたの席はないよ」とはっきり言われた。仕事はなくなり、同僚が仕事を回そうとしても、「子育てに忙しい方だから」と上司が割って入った。
人事や組合に異動を願い出たがかなわず、体調を崩して退職した。
「制度が充実しても、理解がない上司が1人いるだけでこんなことが起きる。成功例だけではないと知ってほしい」。今は別の会社で働く男性はそう話す。
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自分自身や夫、周囲の男性たちは育休を取れていますか。取ってよかったですか。LINEを使った朝日新聞の双方向窓口「#ニュース4U」で経験や意見を募ると、一筋縄ではいかない現実が浮き彫りになりました。
1週間育休とったが…
神奈川県の女性(43)は2010年と14年に出産し、夫は約1週間の育休をとった。「男性の育休取得割合を引き上げたい」という会社の方針から、上司に促された。
育休後、夫は元の生活に戻った。始業は早く、帰宅は夜10時や11時。女性は時短勤務で職場に復帰し、平日は育児を1人でこなした。「時短でも正社員なのだから、仕事の責任は夫と変わらないはずだ」と思ったが、夫の勤務状況をみて「私がやるしかない」と考えた。
子どもたちが幼いころ、2人が寝る前に夫が帰宅することはほとんどなかった。その日の出来事を夫婦で共有する時間もなかった。「少しでも一緒に夕飯を食べる時間を作ってくれたり、週に何回かでも子どもを保育園に迎えに行ってくれたりしたら、全然違ったのに」
男性の育休取得は産後が多い。確かに出産直後は女性の体の負担が大きいが、その後も育児は続く。働く母親が増える中、父親だけが以前と同じサイクルの生活にすぐ戻ってしまうのはなぜなんだろう、と思う。
「『育休が終わったんだから普通に仕事してもいいんだよね』ではないはずなのに」
「ジジババ育休」欲しい
「祖父母を対象にした『ジジババ育休』の制度がほしい」。横浜市で一人暮らしをする会社員女性(61)はそう話す。
近くに住む長女(34)が2年前に出産した。「産後は実家で過ごしたい」と言われ、出産に合わせて3週間の有給休暇を取得した。長女の夫も会社帰りに実家を訪れた。
次の出産でも力になってやりたいが、休暇の申請は気が引ける。
「会社勤めをする祖父母が1カ月でも育休が取れる制度があれば気兼ねなく申請できるのに」
夫婦のコミュニケーションがカギ
「『育休』は『休み』ではないんだよと父親たちに伝えたい」。川崎市の助産師の女性(54)はそう話す。出産後の母親から育休を取得した夫への不満を聞くからだ。
「苦手」と言って家事をしない。泣きやまない新生児にイライラする。言われるまで動かない――。
育休を取得したなら、父親として育児に参加したい気持ちはあるはず。やることをリストアップして。相手の気持ちを察するのが苦手な人もいるから、疲れていても言葉に出して伝えて。母親たちにそんなアドバイスを送る。
産後もうまくいく夫婦には共通点がある。それは、夫婦のコミュニケーションが取れていること。
「子育ては長く続く。しっかり話し合いながら育児をしてほしい」
「取りたい気持ちはあるけど、1人抜けると大変。上司がどんな顔をするかもわからない」
「親世代にも責任」
生後半年の子どもを持つ関東の女性(39)の夫の勤め先は中小企業。産後に1週間の休みをとったが、妊娠中から、育休を積極的に取ろうとしているようには見えなかった。
女性は約20年前に中国から来日した。出身地の子育てと日本の子育てとのギャップが苦しいという。
「日本は子育ての大変さを女性が1人で背負っている。息子を台所に立たせないで育てた親世代にも責任がある」
「産後パパ育休」の制度はあった方が良いが、制度と現実の間に隔たりがある、と感じている。「業種、企業規模、上司の理解。色々そろわないと難しい。男性の育休のハードルはまだまだ高いと思う」(石田貴子、田中祐也)
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■育休「その後」も考えて 朝…
- 【視点】
■男性育休のきれいごとを粉砕し、偽善者どもを糾弾、弾劾せよ 石田貴子、田中祐也が鈴木聖美 & 鈴木雅之の「ロンリー・チャップリン」ばりに我が国の男性育休の欺瞞性・瞞着性を告発し、偽善者どもを叩きのめしている。われわれ働く男性は、この記事
- 【視点】
ここにある様々な課題を見ると、男性育休の問題は、男女平等とか、育児休業とかに留まる問題ではないことを改めて思い知らされます。 これは、多様性をいかにして力に変えるか、という問題であり、働き方をいかにして人間らしく変えていくか、とい