サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会は佳境に入った。
4年に1度のW杯は、選手の「国際市場」ともいわれ、思わぬ人材が突然、出現することがある。
きらきらした才能と豊かな将来性を見せる若手に注目した。
アメリカのMFタイラー・アダムズ
出場32チームの中で、ひときわ好印象を残したのは米国だ。
4年後、カナダ、メキシコとのW杯共催を控えており、世代交代のさなかにある。
機動力を誇るチームの中心が23歳のMFタイラー・アダムズだ。
攻撃の起点であり、守備の要。長短のパスを使い分け、1対1の局面では強さを発揮した。
今大会で最年少の主将は、チームの将来性の高さを感じさせる象徴的な存在だ。
決勝トーナメント(T)1回戦ではオランダに力の差を見せつけられて1―3で敗れたが、「世界最高峰のチームと戦えることは示せた。米国サッカーの大きな進歩だ」と気丈に語った。
イングランド・プレミアリーグのリーズ所属で、4年後にはさらにスケールアップした姿が期待できる。
米国には、アダムズと組む20歳のユヌス・ムサ(20)らMF陣に成長株がそろっていた。
モロッコのMFアゼディン・ウナヒ
初の8強入りを果たしたモロッコにも進境著しい若手がいる。
背番号8のMFアゼディン・ウナヒは豊富な運動量が武器だ。
22歳の決勝T1回戦のスペイン戦での走行距離は両チーム最長の14・7キロ。
スペースを消し、相手の鍵となるMFペドリ、ガビのパスを封じた。
延長戦には果敢なドリブルでゴール近くに持ち込み、決定機も演出した。
いまでこそフランス1部アンジェに所属するが、世界的には無名の存在で、昨年までフランス3部リーグでプレーしていた。
PK戦で破ったスペインのルイスエンリケ監督に「8番に驚いた。名前を知らなかったが、とても優れた選手だ」と言わしめた。
ポルトガルのFWゴンサロ・ラモス
強豪国にも新星はいる。
彗星(すいせい)のごとく現れたのはポルトガルのゴンサロ・ラモスだ。
母国のスター、ロナルドが控えに回ったスイス戦。8強がかかる大一番に代役として初先発した21歳のFWは今大会最初のハットトリックを記録した。
「まさか初めてのW杯の決勝Tで3点取るなんて夢にも思わなかった」と本人も驚く。
代表デビューは大会直前の11月。ポルトガルリーグの強豪ベンフィカに所属し、今季の得点ランク1位を走る。
アルゼンチンのMFエンソ・フェルナンデス
アルゼンチンの21歳のMFエンソ・フェルナンデスは、1次リーグ初戦でサウジアラビアに敗れた番狂わせによって、チャンスをつかんだ。
スカロニ監督がMFの構成を模索する中、第3戦から先発。
メッシが前線に残る分、手薄になりがちな中盤で攻守のバランスに気を配る。
地味だが、「素晴らしいパフォーマンスを示してくれている」とスカロニ監督の信頼を得た。
ポルトガルのベンフィカからビッグクラブへの移籍話も出てきそうだ。
クロアチアのDFヨシュコ・グバルディオル
日本がPK戦で敗れたクロアチアのヨシュコ・グバルディオルは万能型のDFだ。20歳とは思えない落ち着きと安定感を見せている。
身長185センチで機敏。様々なタイプのFWに対応できる能力を持つ。
オランダのGKアンドリス・ノペルト
28歳と選手として決して若くはないが、今大会最大の発見ともいえるのがオランダのGKアンドリス・ノペルト。
代表初招集はこの9月。試合出場のないままW杯を迎え、初戦に抜擢(ばってき)されて先発に定着した。
今大会最長身の203センチ。長い手足を生かした守備に加え、左足のキックも高い精度を誇る。
大会直前の練習をみて起用を決断したファンハール監督は「大舞台に圧倒されない人間性にセーブ力、攻撃の組み立てに必要なパスも出せる」と評価する。
オランダ1部ヘーレンフェインに所属し、頭角を現したのはここ2年ほど。
以前は控えが長く、国内外の2部クラブを転々とした。
ひざをケガして2020年には無所属となったことも。
「両親にサッカーを続けるのは無理ではないかと言われ、ガールフレンドからは警察への就職を勧められた」と明かし、「2年前までは想像もできなかったけど、あきらめなくてよかった」と話す。
16強入りした日本では、ドイツ、スペイン戦で計2点を奪った24歳のMF堂安律(ドイツ・フライブルク)のほか、ともに25歳のMF三笘薫(イングランド・ブライトン)、FW前田大然(スコットランド・セルティック)あたりが市場をにぎわせるか、注目される。(潮智史、藤木健、岩佐友)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。