虎舞の本場、こま犬も虎に変身 震災で残った守り役、郷土芸能と共闘
岩手県大槌町は、郷土芸能「虎舞」で知られるまちだ。なんと、年始の初詣などで会えるこま犬も、このまちでは虎の場合がある。11月20日、地域にある「三陸御社地(おしゃち)天満宮」のこま犬が虎に変身した。その経緯には、歴史的な背景があるという。
このこま犬は東日本大震災時、町内の石材店の敷地内に置いてあった。津波で台座や歯の一部が欠けたが、流されずに残った。一方、三陸御社地天満宮は津波で消失し、町民が寄付を集めて昨年11月に再建された。
天満宮再建を主導したNPO法人「まちづくり・ぐるっとおおつち」の倉本栄一さん(69)は、再生した神社を、町内外から人が集まる場所にしたいと考えていた。
そこで着目したのが、虎舞の由来と、守りの象徴であるこま犬だった。
江戸時代、御社地天満宮を開いた僧侶は、豪商・前川善兵衛に仕えていた。善兵衛やその使用人は、江戸で人気だった浄瑠璃の虎退治の場面を大槌に伝えた。それが、いまも郷土芸能として披露されている虎舞の起源になったとされている。当時、天満宮周辺で演じられたという文献も残っている。
こうした虎舞の由来を知っていた倉本さんは、震災で無事だったこま犬を引き取り、虎舞を模した姿に変身させようと考えた。
プロのイラストレーターで「たぐさん」こと、田鎖徹さんらに協力を求めた。町内の塗装店が全身を黄色に塗り、目や模様のデザインは、田鎖さんと、盛岡市の筆文字アート作家のToMoさんに打診した。田鎖さんは「今年は年男。石像を塗ったことはないが、何かの縁」と引き受けた。
11月20日、田鎖さんらは丁寧にしま模様をつけ、目の色を虎舞の虎頭と同じ金色に施した。道行く町民に「がんばって」と声をかけられながら、8時間半かけて2体の虎を完成させた。「出来栄えは完璧。いい経験になった」と田鎖さん。
倉本さんは「もうすぐ、えとはウサギになる。だけど、ここは来年も再来年もトラです」。(東野真和)
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