肺がんステージ4 他臓器への転移少ない患者の臨床試験、来年にも
肺がんは、日本人で死亡数が最も多いがんだ。年間約7万6千人が亡くなるとされる。完治が難しいとされるステージ4で、肺以外への転移が少ない一部の患者を対象に、完治を目指す治療法を探る臨床試験が来年にも始まる予定だ。
国立がん研究センターによると、2019年に新たに肺がんと診断されたのは約12万7千人。がんの種類別では、男女ともに4番目に多い。診断される年代は、男女とも高齢患者が多く、40代後半は人口10万人あたり男性は19人、女性は13・9人と非常に少ない。
一方、亡くなった人の数(20年)では、男性は肺がんが約5万3千人で最多。女性は2万2千人で大腸がんの次に多い。
肺がんの約9割を占めるのは非小細胞がんだ。比較的早期であれば、治療は手術が中心で、手術が難しい場合は放射線治療を行う。進行すると、放射線治療や薬物治療が中心となる。
診断時、3割がステージ4
全国約450カ所のがん診療連携拠点病院などによる「院内がん登録」では、非小細胞がんと診断された人の30%近くがステージ4だ。5年生存率は、13~14年に診断された人の場合だが、ステージ4全体では10%を切る。
肺がんの場合、遠隔転移があるとステージ4になる。転移しやすいのは、脳や副腎、骨、肝臓などで、がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って、たどり着いた場所で大きくなって起こる。画像で見えない小さながん細胞を含め、全身に転移している可能性がある。
このため、非小細胞がんでステージ4の場合、治療の選択肢はまず、薬物治療になる。がん細胞の遺伝子変異があれば、遺伝子のタイプに対応した「分子標的薬」を使う。がん細胞が免疫にかけているブレーキを解除して攻撃力を取り戻す「免疫チェックポイント阻害薬」も登場している。
「オリゴ転移」」欧米では積極的治療の対象
国立がん研究センター中央病院の呼吸器外科長の渡辺俊一医師によると、この数年、注目されているのが、肺以外の転移が少数にとどまる「オリゴ転移」。1995年に米国の研究者が提唱した概念で、肺にできたがんの他の臓器への転移が3個ぐらいまでの少数に限られる段階で、ステージ4に該当する。
欧米のガイドラインでは、がんができた部位やその周辺への放射線治療や手術を積極的に検討する対象だ。こうした局所治療で2割程度と非常に少ない頻度だが、完治する人もいるという。
背景には、画像診断技術の向上や、より安全で患者の負担が少ない外科手術や放射線治療ができるようになったことがある。
日本では2020年に、一部の放射線治療で5個以内のオリゴ転移が公的医療保険の対象になった。21年には、肺がんの診療ガイドラインでもオリゴ転移への局所治療について記載がされた。ただ、エビデンス(科学的根拠)の強さは下から2番目のC(弱い)で「弱く推奨(提案)」できるという評価にとどまる。
JCOG(ジェイコグ)(日本臨床腫瘍〈しゅよう〉研究グループ)が来年にも、オリゴ転移を対象にした多施設共同の臨床試験を肺がん外科、肺がん内科、放射線治療の3研究グループ合同で予定している。オリゴ転移の定義や対象となる患者、治療方法などの実施計画書を策定中だ。
肺がん外科グループ代表者でもある渡辺さんは「ステージ4の人の中から、根治の可能性がある人を見つけ出して治療ができるようにするのは重要だ」と話す。(寺崎省子)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。