第4回遺族との1週間「何でもやる」と支えた警察官は 26の命が奪われて
スマートフォンに非常事態を告げるニュース速報が飛び込んできた。
窃盗事件を担当する大阪府警捜査3課の橋村奈津美巡査長(33)はこの日、警察署に仕事で詰めていた。
ほどなく、卓上の電話が鳴り、上司に告げられた。
「多くの方が心肺停止状態で搬送された。亡くなられた方もいる。被害者支援班の活動にあたってほしい」
2021年12月17日。大阪市北区のクリニックで26人が犠牲になる放火事件が発生した。
警察官の自分に何ができるのか。橋村奈津美巡査長は悩みながら任務に踏み出します。大きな悲しみの中にある遺族と向き合い、感じたこととはーー。
橋村巡査長は、多数の被害者が出る事件に備え、府警が指定する約1300人の「支援要員」の1人だった。
役割は、遺族の不安や精神的負担を軽減することだ。自宅と警察署の間の送迎や遺体の解剖に関する説明、供述調書を作成するための日程調整などを担う。
研修ではそう、聞いていた。ただ、実際に被害者支援班として遺族対応にあたるのは初めてだった。
恐る恐る押したインターホン
事件発生の翌18日。
上司から、被害者の氏名、遺族の氏名、住所を伝えられた。2人1組で遺族方に向かうよう指示された。
「自分に何ができるのか」
上司から連絡を受けてから、ずっと考えた。任務の知識はあるが、具体的なイメージは湧かない。心にあったのは、「警察官として、できることを全力でやろう」ということだけだった。
めざす家に着き、恐る恐るインターホンを押した。
「わざわざ、ありがとうございます」
遺族からは深く頭を下げられ、意外なほど丁寧に迎え入れられた。静まりかえるリビングで、テーブルに向かい合って座り、自己紹介から始めた。
目の前の遺族は、泣き崩れるわけではなかった。ただ、悲しみが大きすぎて、感情を奪われてしまったように映った。支えたくても、どう寄り添えばいいのか、わからなかった。
「ご要望はありますか」
「お困りのことがあれば、何でもおっしゃって下さい」
尋ねても、「思いつきません」とだけ返ってくる。
「外に出る元気がないようでしたら、買い物でも何でも行きます」
「現場が気になるようでしたら、代わりに行ってきましょうか」
自分にできることがあれば何でもやりたい、という一心だった。
犠牲者の顔は知らされていな…