【そもそも解説】「男性を生きづらい」って、どういうことなのか?
従来の「男らしさ」にとらわれ、生きづらさを感じる男性の存在が語られるようになっています。背景に何があるのか、専門家への取材をもとにお伝えします。
Q なぜ今、男性問題が注目されているのでしょうか?
A 近年、男性によるハラスメントや男性特権的な社会システムに対し、女性や性的少数者が変化を求める声が国際的に高まりました。米映画界が発端の「#Me Too運動」が代表例です。国や企業、自治体などもジェンダー平等に向けた様々な取り組みを始めています。
そうした中で、これまでの「男らしさ」の価値観から抜け出せない男性は「時代遅れ」と批判されたり、社会から取り残されていると不安を感じたりしています。
ジェンダー平等を意識しているという男性でも、職場でハラスメントをしないように細心の注意を払ったり、「仕事も家庭も」とプレッシャーを感じたりしています。そうした生きづらさの背景や、男性がよりよく生きるにはどうすればよいかを考える議論が生まれています。
Q 従来の男性の価値観とは?
A 例えば「男が働き、女は家庭」「男は強くあれ」といった、「男はこうあるべきだ」というステレオタイプの考えです。多くの人が旧来の価値観だと考えていると思います。しかし、現実には根強く残っています。
Q 何が問題なのでしょうか?
A 前提として、日本の男女格差はまだ開きがあります。スイスの団体「世界経済フォーラム」が7月に公表したジェンダーギャップ指数で日本は146カ国中116位で、主要先進国では最下位です。特に政治参加や雇用機会、企業の管理職の割合などで大きな格差があります。
一方、内閣府が2019年から毎年行う「満足度・生活の質に関する調査」では、男性の生活満足度は毎年、女性を下回っています。今年は昨年と比較し、女性が上昇したのに対し、男性は下がりました。男性の自殺者数は毎年減ってきているものの、女性と比べると約2倍の多さです。
男性優位の社会構造であるにもかかわらず、望まない孤立に陥ったり悩みを打ち明けられず抱え込んだりする男性が多いと指摘されています。自己責任の問題として放置するのではなく、生きづらさの背後にある要因や社会的な問題を考えることが必要と指摘されています。
Q 「弱者男性」という言葉を聞くようになりました。
A SNSなどで、非正規の仕事に就いたり、性的少数者であったりと、従来の「男らしさ」の既成概念に合わず苦しんだり距離を置いたりする男性たちのことを指して言われています。
女性にモテないという「非モテ」の男性が語り合うグループなど、男性同士が語り合う動きも出てきています。
一方で、「自分が生きづらいのは女性たちのせいだ」とゆがんだ被害者意識をもち、女性や社会を逆恨みする男性の存在も指摘されています。「インセル」(Involuntary Celibate=不本意な禁欲主義者)と呼ばれ、無差別殺人事件を起こすなど、世界的な問題となっています。
Q 男性への制度的な支援はあるのでしょうか。
A 全国の自治体が近年、男性の相談員がいる男性専門の相談窓口を相次ぎ開設しています。今年3月末現在で、37都府県に79カ所と急増しています。内閣府は来年度から、男性専用の相談窓口を開設する自治体を支援するため、交付金の支給を検討しています。
しかし、相談員が不足しており開設していない自治体もまだまだ多いのが現状です。(伊藤和行)
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