第1回「命つなぐ資格ない」 31歳で2度目の肺移植手術、断った僕の覚悟
【A-stories】生きる覚悟、死ぬ覚悟 臓器移植を選んだ僕
朝、薫さん(31)の携帯が鳴った。
寝ていて気づかないでいると、今度は父の携帯が鳴った。
電話の主は、臓器移植コーディネーターだった。
「肺のドナー(提供者)が現れました。薫さんはいらっしゃいますか?」
肺の移植手術の最終確認だった。
両親は、ベッドにいた薫さんのもとへと走った。
「薫、どうする?」
そう問いかける両親の目を見て、薫さんは思った。
心からイエスと言ってほしいと願っている。でも、その思いをこらえて、息子に判断を委ねてくれてもいる。
脳死と判定された人からの臓器提供という選択肢のおかげで、救われる命がある。そして、自分には「まだ生きていたい」と思う気持ちもある。
それでも、葛藤していた。
他人の命の上に、自分の命をつなぐ資格が、僕にはあるのだろうか――。
死ぬ覚悟。生きる覚悟。そのどちらも持てていなかった。
臓器移植の希望者のうち、移植を受けられる人は数%しかいない。ドナーが少ないからだ。
実は6年ほど前、薫さんは両肺移植を受けていた。そのときはドナーが現れるまで2年半、待った。
待機期間中に少しずつ体調が悪化し、死が鼻先にある日々のつらさも知っている。
それでも、「イエス」とは言えなかった。
移植コーディネーターに伝えた。
「心の準備がまだ整わないん…
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- 【視点】
この連載のデスクを担当しました。山内記者から「臓器提供を受けられるのに、断った男性がいる」と聞いたときは、本当に驚きました。国内で移植が受けられず、何年も待機した末に亡くなった方や、海外に渡航せざるを得なかった方、そのご家族に取材をした経験
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