アクアライン開通から25年 「ドル箱」の高速バス、コロナ禍で異変
東京湾アクアラインが18日で開通25年を迎える。通行量は過去最高だったコロナ禍前の2019年に並ぶまで回復したが、千葉県木更津市周辺を東京方面への通勤圏に押し上げた、アクアラインを通る高速バスの乗客は半減している。この「ドル箱」の収益で路線バスを維持しているだけに、県南の地域交通に危機が訪れている。(堤恭太)
通勤時間帯の朝、JR木更津駅前のロータリーに次々と高速バスが入ってくる。品川、川崎、横浜、東京、新宿……の各駅に向かって通勤客を運ぶ。だが、以前のごった返している風景はない。品川に通う40代の男性会社員は、「JRよりも早く着くし、座れる。神奈川に住んでいたときよりも通勤が楽になった。さらに最近は混まなくなってきた」と話す。
コロナ禍以降、高速バスの乗客が半減している。アクアラインの昨年度の全体の通行量は1日平均4万8400台で、コロナ禍前の水準まで回復。だが、アクアラインを通って東京方面に行く高速バスの乗客は、19年度の478万人から20年度216万人、昨年度は259万人になった。
一時は2割まで落ち込んだが、バス会社側は一時的なものと捉え、当初は臨時的な減便の「計画運休」で対応した。だが、時間が経っても5割程度にしか戻らず正規なダイヤ改定で本数を減らした。その結果、昨年度の便数は22万便。19年度の8割に減っている。
高速バスを運行する日東交通(木更津市)では、利用客減少はリモートワークの定着によるものだと分析している。「定着は予想以上だった。コロナが収まっても6割ほどしか戻らないかもしれない」(高橋晴樹・運輸部長)と危惧する。
同社は木更津、館山など県南地域が営業エリア。人口減少地域を多く抱える路線バスが中心だった時代は経営難に陥っていた。それが1997年にアクアラインが開通して高速バスに参入。「V字回復」して累積赤字も解消した。
高速バスが「ドル箱」と言われるのは運賃設定にある。ETC使用の普通車だと3090円から800円に割引されるアクアラインの通行料金は、あくまで国と県の負担ありきの臨時的な値下げ。高速バスも5090円が1320円になるが運賃は5090円をベースに設定される。そのため高収益につながる。
それでもほとんどの路線でJRより定期を除くと安く早く楽で、乗客の少ない日中や深夜の運行の確保にもつながっていて不満の声は聞こえてこない。
木更津市では11月から市街地循環バスの実証実験を始めた。通常、路線バスは駅から終点までを往復するが、往路と復路で別の路線を走って駅に戻る形にして複数路線を一つにした。
循環バスは買い物難民対策に行われることが多いが、今回は路線の見直しを探る試みで、バス会社のためという色合いが濃い。
背景には高速バスの減収でバス会社の経営が苦しくなると路線バス維持が難しくなるからだ。そこで市は路線再編で市民の足の確保を探ろうと考えた。
市地域政策課の担当者は、「この地域は高速バスの高収益が人口の少ない地域の路線バスを支えているという枠組みになっている。高速バスは切っても切れない関係」と説明する。
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〈東京湾アクアライン〉 木更津市と川崎市を結ぶ全長15・1キロの自動車専用道路。木更津側から約5キロは橋で、人工島のパーキングエリアの海ほたるから川崎側の約10キロは海底トンネルになっている。1989年に着工し、総事業費1兆4400億円をかけて97年12月18日に開通した。2009年8月にETC利用の普通車が800円に値下げされてから、通行量は開通当初の4・8倍に増えた。
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〈木更津市の「V字回復」〉 アクアライン開通当初は東京に人や消費が吸い取られるストロー現象で街は急激に衰退。木更津駅周辺の商業地の地価が2000~03年に4年連続で日本一の下落率を記録した。だが、09年の通行料金の800円化に加えて12年の三井アウトレットパークのオープンで商業施設の建設が進み、人口も09年4月の12万6663人が今年4月には13万5767人になった。
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