「定時で社長業」 子育てとの両立を目指す老舗食品会社トップ
「イシイのミートボール」で知られる創業77年の食品メーカー「石井食品」(千葉県船橋市)。5代目社長の石井智康さん(41)は、豊かな自然の残る千葉県いすみ市で3歳の娘を育てる父親だ。昨年、妻を病気で亡くしたのを機に、仕事を基本的に午前9時から午後5時までと決め、子育てと社長業を両立する。
ITエンジニア出身の石井さんが石井食品に入社したのは2017年。いまだにファクスやガラケーが活躍する職場にカルチャーショックを受けた。仕事量に偏りがあり、長期休暇を取る社員も少ない環境に、「改革」を決意。翌年社長に就任するとチャットツールを導入し、工場も含め全社員が素早く意思疎通できるようにするなど、社内の情報共有に注力した。
IT業界から転職 社内に変化の風
その上で、「最低1週間、できれば2週間の休暇」を呼びかけた。19年には娘の誕生に合わせ、自ら1カ月の育休を取得。どれもIT業界では「当たり前」だったことだ。石井食品で男性社員の取得は2人目で、発表すると女性社員を中心に歓声が上がった。
だが、仕事と家庭の両立が順風満帆だったわけではない。コロナ下、他人を頼らないようにと、働く妻と二人三脚で子育てをしていた。病で妻を亡くしたのはその矢先だった。
立ちゆかなくなり、娘を連れて出勤すると、社員が喜んで相手をしてくれた。石井さんは友人にも積極的にSOSを発するようになった。こうした姿勢は社内の雰囲気も変えた。昨年、対象となる男性社員の6割が育休を取得。社員の連携も進み、定時に仕事を終わらせる意識が広まる。
石井さんが子育ての中で得た気づきは商品開発にも生かされている。働き方改革によるコスト減もあり、22年3月期は3年ぶりに黒字になった。
「子どもに食べさせたいもの、子どもが喜んでくれるものは何か。私自身の暮らしから考えて、届け続けたい」。子育て世代に支えられてきた食品メーカーとして、たくさんの親子を笑顔にしたいと考える。
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- 【解説】
明日から子ども達のお弁当は毎日「イシイのミートボール」にしたい、と思うほど共感した。 私は長男が生まれて3週間で起業し、以来17年間、ずっと時間制約付き社長として1日8時間一本勝負で仕事をしてきた。41歳の男性の社長がそれを実践するのは