• アピタル

乳がんホルモン治療、中断して妊娠・出産 3年後の再発率変わらず

後藤一也
[PR]

 乳がん患者がホルモン治療を2年間中断して妊娠・出産に挑戦した場合に、がんの再発リスクが高まるのかどうか――。日本など20カ国が参加した国際共同医師主導臨床試験で、3年後の再発率はホルモン治療を継続した場合と変わらないという中間結果が報告された。かつては乳がんの特徴から、患者に対して妊娠をあきらめるように指導されていたが、研究チームは「出産ががんの再発リスクを高めるという禁忌を決定的に打ち破った」とコメントした。

 研究チームが12月、米国で開かれた乳がんの国際シンポジウムで発表した。治験に参加したのは、42歳以下で、ステージ1~3のホルモン陽性乳がんの患者518人。18~30カ月のホルモン治療のあとに、妊娠・出産のために治療を中断し、317人が1回以上出産した。

 中間解析の結果、ホルモン治療を中断してから3年後の再発率は8・9%だった。過去の治験データから、ホルモン療法を続けた場合の同時期の再発率は9・2%だったため、妊娠や出産が短期的ながんの再発リスクを高めないことがわかった。

 乳がんの約70%は、女性ホルモンのはたらきでがんが成長するタイプだ。そのタイプの治療では、手術で切除したあとに、女性ホルモンのはたらきを抑えるホルモン療法を5~10年ほど続けることが推奨されている。

 ただ、ホルモン療法の薬は、流産や奇形児のリスクがあるため、治療中は妊娠できない。また、妊娠や出産をすると女性ホルモンのはたらきが強まるために、再発するリスクが高まる可能性があると考えられてきた。

 以前は、薬物治療後の乳がん患者は、妊娠をあきらめることがほとんどだった。

 日本では2012年から厚生労働省の研究班が立ち上がり、14年には乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療についての最初の手引きが作られた。

 今回の国際共同医師主導臨床試験に日本の調整医師として関わった国立国際医療研究センター乳腺・腫瘍(しゅよう)内科の清水千佳子診療科長は「非常にインパクトのあるデータだ。ただ、研究自体は10年経過をみることになっている。長期的な再発リスクへの影響についても調べる必要はある。また、この最初の解析までの間にも、再発している人は10%近くいるため、様々なリスクを考えて妊娠・出産の選択を考えることが大切」と話す。

 臨床試験には参加していないが、横浜市の丸橋真生さん(35)は今年11月末、乳がんのホルモン治療を中断して、第2子を出産した。

 右乳房に乳がんが見つかった丸橋さんは、19年1月に右の乳房の全摘手術をした。ホルモン治療の開始前に採卵し、受精卵を凍結。ホルモン治療を3年間続けたタイミングで再発がなかったことなどから、治療を中断し、凍結した受精卵を子宮内に戻した。

 丸橋さんは「再発するのではないかという不安は今もある。妊娠や出産が再発に影響しないというのは安心できるデータ」と話す。(後藤一也)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(春トクキャンペーン中)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

春トク_2カ月間無料
がんとともに

がんとともに

がんになっても、安心して働き、暮らせる社会に。がん検診を受けるのが当たり前の社会に。[もっと見る]