日影巡るマンション紛争再び 名古屋・中保育園の保護者らが反対
【愛知】名古屋市中区大井町の市立中保育園(園児約100人)の南西側に15階建てマンションの建設計画が持ち上がっている。園舎が日影になる、と保護者会が反対の署名運動を始めた。付近では少なくとも過去に3回、同様の建設紛争が起きており、市の「介入」を求める声も出ている。
建設を計画するのは大阪市の業者。元コインパーキングの敷地約440平方メートルに高さ44・2メートルのマンションを建てるというもの。
保育園の南に別の10階建てマンションなどもある。保護者会の依頼で、名古屋市北区の建築士後藤徹さん(86)が日影図を作製したところ、太陽の高度が最も低い冬至の午後2時半には園全体が建物の影に入ることが分かった。5月下旬~7月初めを除く約10カ月間、影響が出るという。
計画地東隣の戸建てに住む男性(36)は「うちも完全に日影になる」と話す。3歳の子どもが通園しており、「何とかしたい」。
ただ現場は、地下鉄・東別院駅最寄りの商業地域で、建築基準法の日影規制はない。近くの自営業女性(75)らによると、30年ほど前から中高層ビルの建築が続く。名古屋高速が近くを通り、1972年度に改築した2階建て園舎や、園庭はビルの谷間にある。
保護者会は、園南側にマンションが計画されるたびに反対運動の核になってきた。署名を届け、市長室の前に座り込んだことも。この30年で周辺では11階建ての計画が10階建てになったほか、別の10階建ての計画が撤回されコインパーキングになり、13階建ての計画が撤回されて戸建てになるなど変更があったという。
運動のてこにしているのが、教育施設に日影が生じる場合、業者側に「配慮や協議」を義務づけた市の施策だ。市独自に74年の指導要綱に盛り込み、2000年には条例化された。
ただ、この条例をめぐっては、どの時点で協議が尽くされたといえるのか判断が難しい。名古屋教会幼稚園(同市中区丸の内)の事例では、名古屋地裁は昨年3月、「条例に基づく協議が不十分」と認め、南側にマンションを建てた業者側に約260万円の支払いを命じている。
中保育園の事例について、市建築指導課は「しっかり協議してほしい」と中立の姿勢だ。
市の施設が日影になり、市は当事者でもあるはずなのに……。保護者会長で2歳児を通わせる渡辺真緒さん(28)は、割り切れなさを感じるという。「子育て環境が大切といいながら、何度も紛争が起きるままにしておくのはおかしい」。保護者会の先輩にも会って知恵を絞る。ブログ「おひさまを守る会」(https://ameblo.jp/nakaohisama/)で活動を発信している。
建築主の業者は取材に、「現在のところ、設計変更する考えはない。ほかの建物で保育園は大部分が日影になっており、今回の影響は微増だ」としている。(伊藤智章)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。