連載「それでも、あなたを」ウクライナ編①
2022年2月24日午前5時。
北緯50度に位置するウクライナの首都キーウはまだ、日の出を迎えていなかった。
近郊に住むアルチョーム・ルトチェンコ(31)は、友人の電話でたたき起こされた。
「おい、ミサイルが上空を飛んでいるぞ」
いつも冗談を言い合う仲だ。この日も、からかわれたのだと思った。
身支度をし、いつものように洗車の仕事に向かうために家を出て、バスに乗り込んだ。
職場に近づいたころ、車窓から灰色の空を飛ぶ何かが見えた。ミサイルだった。
すべてを理解し、その日のうちに決めた。
戦場に行く、と。
軍隊の経験はない。でも、ウクライナは自分の家だから。
汚職も深刻だし、理想的な国じゃないかもしれない。でも、自分たちの生き方は、自分たちで決めることだ。
戦場に行くのは怖い。
それでも、戦いに行かずに、家族が住む街がロシア軍に占領されてしまったら。自分を許せないだろう。
家族のほかにも、戦う決意を伝えるべき相手がいた。友だちから、恋人になって2カ月になる女性。打ち明けると、心配しつつも、こう言ってくれた。
「あなたを誇りに思う」
心の準備は整った。
【連載】それでも、あなたを 愛は生きる力に
国家間の衝突、権力による抑圧、偏見や差別……様々な苦難を生き抜く中で出会い、また、絆を深めていく2人がいます。その物語をつむぎ、背後にある国際問題のリアルを伝えます。
激戦地 明日生きられるかわからず
手続きを経て、4月にキーウ…

ウクライナ情勢 最新ニュース
ロシアのウクライナ侵攻に関する最新のニュース、国際社会の動向、経済への影響などを、わかりやすくお伝えします。[もっと見る]