第2回「なあ、頼むよ」知事の懇願を町長は拒んだ 原子力行政の伝統とは

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 「わかってくれよな」

 懇願するように切り出したのは、福島県知事佐藤雄平だった。2012年11月、東京都内の福島県事務所。佐藤は、福島県双葉町長の井戸川克隆と一対一で向き合っていた。

 井戸川は佐藤の言葉を、「中間貯蔵施設を造ってくれ」という意味に取った。

 「ダメだ。なんで双葉町が(中間貯蔵施設を)引き受けなきゃいけないんだ。理由あっか、知事」

 井戸川はたたみかけた。

 「じゃあな、知事、どうしても中間貯蔵施設を双葉町に造れって言うんであれば、下郷町を俺にくれろ」

 福島県下郷町は佐藤の出身地だ。会津地方に位置し、面積は317平方キロ。東京23区のおよそ半分の面積である。震災時の人口は約6千人。双葉町と同規模であった。井戸川はその地をもらい、「名前を双葉町に変える」と伝えた。到底、実現不可能なことを持ち出すことで、井戸川は中間貯蔵施設の受け入れ拒否の姿勢を明確にした。

 佐藤はムッとした様子で井戸川をにらみつけ、黙っていた。2~3分、両者のにらみあいが続いた。

 話はそこから進展しなかった。「知事、帰っから」。井戸川が席を立ち、ドアノブに手をかけると、佐藤が言葉を掛けた。

 「わかってくれよな。なあ、頼むな」

 井戸川は振り向かずに「わかんねえ、ダメだ」と言って部屋を出た。

 政府はこの年の夏、双葉町の一部を、東京電力福島第一原発事故の除染で出た県内の土壌などを30年間にわたり保管する「中間貯蔵施設」の候補地とした。だが、井戸川は設置に断固反対を貫いていた。

 一方、佐藤は広域自治体のトップとして、政府から中間貯蔵施設の設置に向けた事前の現地調査を受け入れるかどうかの判断を迫られていた。この日の会談は、そんな佐藤が井戸川の携帯電話に何度も連絡し、実現したものだった。

 だが、中間貯蔵施設の設置について県が介入する法的な権限は何もなかった。

連載「『土』の行方~原発事故の宿題~」はこちら

東京電力福島第一原発事故後、同原発が立地する福島県双葉、大熊両町に造られた中間貯蔵施設。その受け入れをめぐり、福島県内でも水面下で攻防が繰り広げられました。原子力行政における県の役割を考えます。

「心理的な戦争状態ですよ」

 井戸川は当時の会談をふり返…

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