第3回「まるで予知小説」偶然重なった羊牧場 つながる縁はビールづくりに
村上春樹氏の小説「羊をめぐる冒険」の舞台とそっくりな場所が、北海道美深(びふか)町にある。羊、白樺(しらかば)林と放牧地に囲まれたペンション。現地を訪ねると、羊をめぐる実話の物語があった。
「村上春樹さんには予知能力があるんでしょうかね」
村上春樹氏の小説「羊をめぐる冒険」の舞台ではないかと評判が立ち、年間を通じてファンが訪れる北海道美深(びふか)町仁宇布(ニウプ)。小説中のイメージに重なる羊牧場とペンション「ファームイントント」を営む柳生佳樹さん(74)は、そう話す。
小説が世に出たのは1982年。柳生さんが仁宇布で羊牧場を始めたのが86年。つまり、小説のモデルではと評される羊の放牧地もペンションも、村上春樹氏が執筆当時は存在しなかった。
小説はほとんど読まないという柳生さんが、初めて「羊をめぐる冒険」を読んだのは、「トント」を建てた後の97年だった。
「この本は羊飼いのバイブルだぞ」。同業者に勧められたことがきっかけだった。
「小説には自分の牧場と『トント』のことが書いてるとしか思えなかった。未来を予知した小説かと思って、びっくりした」
小説には美深町とも仁宇布とも、地名は出てこない。ただ、小説中で主人公が札幌からたどってきた道のりや風景描写は、仁宇布とぴったり重なった。
例えば、急流をたたえるペン…