第1回「トロイの木馬」自ら招いた東芝 日本型経営を揺さぶる資本の論理
経営の混乱ぶりを象徴するような場面だった。
昨年6月、東芝の定時株主総会。社外取締役の綿引万里子氏(元名古屋高裁長官)が、マイクの前に立った。会社が用意した原稿は読まなかった。
「今回の取締役候補者が多様性、公平性、バランスの良さを満たしていると見えるのか」
会社が提案する取締役候補13人のうち、2人の選任に公然と反対した。東芝の大株主でアクティビスト(物言う株主)とされる海外ファンドの幹部だった。
すでに取締役にはファンド推薦で入ったとされる4人がいた。さらに2人が加われば構成が偏る、というのが綿引氏の主張だ。
しかし、総会では綿引氏を含む13人全員が選任された。直後に綿引氏は辞任。取締役による異例の反乱は、あえなく終わった。
「綿引氏は取締役会で孤立していた」と関係者は明かす。別の元幹部は「ファンドに対抗しようにも多勢に無勢だ」と言った。
様々なステークホルダーに会社はどう向き合うべきなのか。この連載では、現場で模索する企業の姿を手がかりに、「ニッポン株式会社」の明日を探る。
日本を襲う「株主資本主義」
従業員や銀行、取引先などと…
- 【解説】
当連載のデスクを担当しています。昨春始まった資本主義NEXTシリーズが今回取り上げるのは、会社は何のため、誰のためにあるのか、という企業統治(コーポレートガバナンス)の問題です。 昨年お届けした環境編「グリーン成長の虚実」、金融編「試