しんどいこともたくさんある人生の中で、私たちは何を支えに生きていくのか。日常を細やかに描写し、小さく立ち直る人たちを描いてきた芥川賞作家の津村記久子さんに、「よりどころ」について話を聞きました。
――津村さんは新卒で入った会社でパワハラに遭い、その経験を小説「十二月の窓辺」で書いています。
9カ月くらい勤めていたのですが、最後の2カ月はずっと怒鳴られていました。電話で仕事の話をしているだけで怒られるなど、理不尽なことも多かったです。
印刷関係の会社でしたが、存在しない製版フィルムの紛失を、私のせいにされるという事件がおきました。ありもしないことで怒られ、おかしいなと思いました。そこで自分は辞めたのですが、早く抜けられてよかったなと思います。
支えになったのは
――当時、「よりどころ」にしていたものはありましたか。
当時は何をしていたのかな。何もなかったんじゃないかな、音楽を聴いていたくらいで。パワハラを受けたのは2カ月くらいの期間だったので、心は保てていなかったけれど、惰性で会社に行けていたという感じでした。
理不尽に悩んだ津村さんの支えになったものは、「人に気にかけてもらった」という経験でした。「他者を気にかける」ということがいかに自身の立ち直りにもつながっていくか、津村さんの「よりどころ論」が広がっていきます。
――会社を辞めた後は?
「もう会社勤めはできない」と思った時期もありました。
■大きな幸せは書けないけれど…