第1回山里に響く3年ぶりの「テホヘ!」 コロナ禍、戻ってきた花祭
12月3日深夜、愛知県東栄町役場にほど近い中設楽(なかしたら)地区。満天の星が輝き、澄んだ空気が広がる山里に3年ぶりのかけ声が響いた。
トーホヘ、テホヘ、テーホトヘ、トホヘ……。
「花宿」とよばれる屋根つきの会場には100人ほどの観衆がいた。暗がりから、のそりのそりと榊(さかき)鬼が現れると、空気がピンと張り詰めた。榊鬼の庭入りだ。
神と人との和合を祈る、奥三河地方の花祭(はなまつり)。祭りが始まって5時間近くが過ぎ、ようやく一つの山場を迎えようとしていた。
愛知県の山深い奥三河地方の集落に700年以上前から伝わるとされる「花祭」。過疎による担い手不足やコロナ禍を乗り越えて、祭りを守り伝える人たちの姿を伝えます。
舞庭(まいど)という土間で、真っ赤な面をつけた榊鬼が、大地を踏み固める舞いをする。五穀豊穣(ほうじょう)を願い、悪霊を振り払う。長さ2メートルはあるマサカリを振り回しながらも、ゆったりと動く。鬼自身が、その一瞬一瞬をかみしめているかのようだ。
熱気を帯びる鬼をすぐ隣に立って扇子であおぐ人。「いいぞ!」「うまいぞ!」と、缶ビール片手に陽気に合いの手をいれる人。榊鬼は祭りの花形だ。1時間ほどの舞いを終えると大きな拍手が湧いた。
榊鬼を務めたのは、西田優斗さん(24)。中設楽で生まれ育ち、保育園のころから花祭で舞ってきた。
コロナ禍のせいで観衆の前で舞うのは久しぶりだが、舞庭は昔から親しんできた空気そのものだった。観衆のかけ声も、別の地区の幼なじみのヤジも。「場を盛り上げてくれたおかげで、気持ちを乗せて舞うことができました」。西田さんは笑顔を見せた。
全国に熱狂的ファン
地元で「花」と親しまれる祭りに、観衆も名古屋や東京から駆けつける。その舞いのリズムや空気感が人々の心を引きつける。「花狂い」と呼ばれるファンも祭りには欠かせない。
内藤由美さん(60)は名古屋で生まれ育ち、花祭と出会って40年。祭りにかかわる人々の結びつきの強さに、表現できないような魅力を感じた。各地区の花祭に通いつめ、知り合った地元出身の男性と結婚した。
花祭は地域の高齢化と担い手…