第1回「空中の白鯨」に残る戦闘の爪痕 数千人犠牲になった紛争地の最深部

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シュシャ=国末憲人
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 遠方から眺めると、その街はまるで、空中を泳ぐ巨大な白鯨のようだ。

 旧ソ連南部、ナゴルノ・カラバフ地方のシュシャは、標高1600メートル前後の山の上に位置する街である。白い岩の絶壁に取り囲まれた景観に加え、19~20世紀には著名な詩人や音楽家を輩出して文化都市としての名声も築いた。通常なら、ユネスコ世界遺産に登録されても不思議でない。

 そうならなかったのは、ナゴルノ・カラバフの領有支配を巡ってアゼルバイジャンとアルメニアが激しく対立し、紛争を繰り返してきたからにほかならない。

旧ソ連南部ナゴルノ・カラバフのシュシャは、標高1600㍍の山頂にある天空の古都です。2年前の紛争で、何千人もの犠牲の末にアゼルバイジャンが奪還した現地を訪ねました。

 アゼルバイジャン西部の山岳地帯に位置するナゴルノ・カラバフにはアルメニア系住民が多く、ソ連時代はアゼルバイジャン共和国内の自治州の地位を確保していた。ソ連から独立した1990年代、アゼルバイジャンとアルメニアが衝突した「第1次ナゴルノ・カラバフ紛争」の結果、シュシャを含むナゴルノ・カラバフ全土がアルメニアの支配に入った。

 シュシャを自らの文化と伝統のよりどころと見なすアゼルバイジャンは、その奪還を悲願と位置づけ、四半世紀余りを経た2020年に大規模な軍事攻勢をかけた。44日間の激戦と数千人ともいわれる犠牲者を出したこの「第2次ナゴルノ・カラバフ紛争」ではアゼルバイジャンが優勢に戦いを進めた。同年11月には、アルメニアがナゴルノ・カラバフ地域の一部を残して、90年代から支配してきた周辺地域をアゼルバイジャンに引き渡すとする停戦合意が発効した。この停戦合意の直前にアゼルバイジャンはシュシャを制圧した。

 この停戦合意の直前にシュシャを制圧したアゼルバイジャンは、この街の再建と修復を大々的に進めている。昨年11月、現地を訪ねた。

山あいの温泉郷のような風情

 海面下28メートルのカスピ…

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