「ずっと、住み慣れた家にいたい」。そんなささやかな望みも、老いや病からとたんに難しくなることがある。医療のプロの支えがなければ――。
昨年4月、愛知県扶桑町で、古民家が「訪問看護ステーションあららぎ」として生まれ変わった。
開業したのは看護師の神野遥介さん(30)と下舞和輝さん(29)。祖父母ほど年の離れた患者の家へ、毎日車を走らせる。
12月初旬の午後5時。2人は小牧市の西尾光江さん(84)を訪ねた。以前に床ずれのあった右足のかかとに触れ、下舞さんが穏やかに問いかける。
「痛いとこあります?」
「痛いとこはないね」
「ほんとやね、きれいになった」
ほろっと笑顔がこぼれた西尾さんに、傍らで血圧と体温を測っていた神野さんも「きょうご飯は何食べました?」と話しかけた。
西尾さんは2人が初めて担当することになった患者だ。
「プロとしてはだめかもしれないけど、情が入ってしまって。週に1度お会いするのが楽しみなんです」と下舞さんは言う。
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コロナ病棟 泣き崩れた家族を前に無力感
神野さんと下舞さんは大学で知り合い、いったんはそれぞれ別の総合病院に就職した。
神野さんが働いていたのは、がんや肺炎などの患者が入院する病棟だった。病状の重い患者も多く、夜勤中に3人を看取(みと)る日もあった。
点滴や管を外し、体を拭き清…