第5回ISの男に「所有」され2度の妊娠 悲劇語り、生きる自信を与えたい
「死んだのが、私だったらよかったのにね」
12歳の娘がつぶやいた。不慮の事故で、若い女性が犠牲になったときだった。
「そんなことを言わないで。あなたは若くて美しい少女。これから結婚だってするのよ」
母のレイラ・ホデイダ(51)は、娘のジャミーラに懇願するように言った。「大丈夫だよ。私はきれいな女の子だもんね」。冗談ぽく、笑って返された。
レイラとジャミーラは、イラク北部の村で暮らしていた。13人の大家族。母娘は名前で呼び合う、「友人のような存在だった」。聞き分けがよく、計算の得意な娘。いつも母の手伝いをしたがり、小さいときはよく一緒にパンをこねた。
連載「ヤジディ教徒の悲劇 ISの暴虐の果て」
8年前、テロ組織の標的となった少数派の人たちがいます。わずか数日で1千人以上が虐殺され、女性や少女は「性奴隷」にされました。世界から悲劇が忘れ去られることを恐れる人々の、今も続く苦しみを報告します。記事後半にレイラへのインタビュー動画もあります。
そんな日常が破壊されたのが、2014年夏だった。中東のイラクとシリアで勢力を拡大する過激派組織「イスラム国」(IS)が、故郷の村の一帯を襲った。
数日間で1千人以上が虐殺された。約6400人が連れ去られ、今も約2700人が行方不明のままだ。
ISはこの地域に暮らすヤジディ教の人々を悪魔崇拝だとして異端視し、標的にした。一家も拉致され離ればなれになったが、レイラとジャミーラはそれぞれ、約8カ月後に逃げ出すことができた。
再会した娘は、長い黒髪が汚れ、顔はほこりにまみれていた。でも、笑っていた。
ようやく日常に戻れたのに
最初の1週間ほどは、幸せそうに過ごした。だが、だんだんと様子がおかしくなった。
突然泣き出す。レイラが部屋を出ようとすると、服をつかんで放さない。車の音が聞こえると、部屋の隅に行っておびえた。
レイラは恐ろしい事実を打ち明けられた。
小学生だった娘はレイプされ…