違和感は、入社直後からあった。
会社から歩いて10分ほどの銀行で、取引の手順を教えてもらった時のこと。指導役だった30代の女性上司は、声もかけずに1人で会社に帰っていった。
「これやって」。その上司からの業務の指示は、ぶっきらぼうに聞こえた。
終業時間の午後5時前、経理の雑務を押しつけられた。日付が変わるころまで仕事は終わらなかった。
新卒で入った会社だった。外資系で、上司は海外の出身。コミュニケーションの取り方が、日本人とは違うのかと思っていた。
だが、終業間際に仕事を押しつけるのは、荷物をまとめた時を狙っているようだった。他の社員への話し方に比べて、自分への口調は高圧的だった。
出なくなった声
横浜市の会社員佐々木裕華さん(34)は約10年前、上司との関係に悩んでいた。運輸系の会社で、社長秘書兼事務のような仕事だった。
入社して2~3カ月が過ぎたころ、給湯室で1人、食器を洗っていた時だった。その上司が入ってきた。1人が入るのがやっとのスペース。何事かと思いながらも、食器を洗い続けていた。
上司は給湯室にあった電気ポットを手に取ると、佐々木さんの手をめがけて湯を注いだ。無言だった。佐々木さんは急いで手をそらしたが、水ぶくれになった。
「誰も助けてくれないと諦め…
- 【視点】
紙面ではこの記事に添えて、追手門学院大社会学部の森真一教授の解説が載っていました。「『好き』は憧れ、『推し』はアバター(分身)」「自分の理想を託すことができる『もう一人の自分』としての推し」という表現にうなずきました。 人がアスリートやチ