米国で増殖する「ピンクスライム」 地方紙の「顔」、裏には政治団体

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高島曜介
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 地方紙のような名を冠し、党派性の強い記事を発信するニュースサイトが米国で増殖している。確認されているだけで、1200超。ジャーナリズムを装いつつ、質の低い記事を量産することから、加工肉の増量などのために混ぜ込まれるくず肉の俗称になぞらえて「ピンクスライム・ジャーナリズム」と呼ばれるが、その実体とは。

 今年5月31日、約3千人の生徒が在籍する米イリノイ州シカゴ郊外の「オークパーク&リバーフォレスト高校」。会議を終えた事務局長のカリン・サリバンさん(57)のスマホに、ワシントン・ポスト紙などの記者から身に覚えのない「ある記事」の確認を尋ねるメールが届いていた。

 「人種に基づく成績評価システムを実行へ」。高校を名指しした記事には、「人種間のテストの点数を均等にする」「黒人生徒の欠席や不品行、課題の未提出は減点されない」などと書かれていた。

 実際には、計画どころか、議論すらしていない。「記事は誤報」という声明をホームページで公表した。だが、すでに数百万人のフォロワーを持つ保守派の著名人らが記事をツイッターなどで転載していた。確認の連絡はない。ネット上で駆け巡る誤報を、止めることなどできなかった。

 記事サイトの名は「ウエスト・クック・ニュース」。クックはイリノイ州にある郡名で、サイトの体裁もなじみがある。一見するとよくある地方紙のものだ。ただ、サリバンさんは、すぐにピンときた。2021年9月にも誤報があり、訂正を求めたサイトだったからだ。この時は、歴史の授業の成績評価基準を下げたという誤報だった。

 このサイトの記者の名前も姿も声も、当時から一切わからない。学校で誰も一度も取材を受けたことはなかった。サリバンさんは「本来信頼がある地元紙のような『顔』をしているから、これだけ誤報が拡散されたのではないか。分断をあおる記事ばかり流し続け、誤報があってもやり取りすらできず、悔しい」。

アルゴリズムで記事を量産、偏向報道も

 米コロンビア大学トウセンターなどの調査によると、こうした「ピンクスライム」サイトのネットワークは全米50州に及んでいる。19年末には450ほどだったが、20年8月までに3倍に増えた。特に選挙の激戦州に集中し、この年11月にあった大統領選に向けて増加した形だ。

 同センターの報告書によれば…

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    鈴木一人
    (東京大学大学院教授・地経学研究所長)
    2022年12月31日13時46分 投稿
    【解説】

    ネットの普及などで地方紙が次々と失われていく中で、「ジャーナリズムの砂漠」が生まれ、それを埋めるように地方紙の体裁を採った「ピンクスライム」がはびこっているが、それは一定の需要があるにも関わらず、まともなジャーナリズムを維持するコストが高す

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    せやろがいおじさん
    (お笑い芸人・YouTuber)
    2022年12月31日14時56分 投稿
    【視点】

    日本でも同様の現象は起こりつつあると思います。訓練を積んだ記者が書いた新聞記事よりも、ファクトよりも閲覧数が優先され、結果としてセンセーショナルな見出しのフェイクニュースを垂れ流す劣悪なネットメディアがビジネス的には成功をおさめてしまう。実