第3回「祭りが過疎地の暮らし守る」 コロナが浮き彫りにした住民の本音

有料記事

柏樹利弘
[PR]

 舞庭(まいど)と呼ばれる土間に、シャン、シャン、シャン……と鈴の音が響いた。

 11月下旬、愛知県東栄町足込(あしこめ)地区では花祭(はなまつり)の本番に向けて、「舞習い」という練習が熱を帯びていた。鈴を片手にどの子もまなざしは真剣だ。ここでは、幼児が舞う「花の舞」に3歳から加わり、少年なら「三ツ舞」、青年なら「四ツ舞」と段階的に難度が上がる。

 「2年も空いたら、子どもたちの気持ちが祭りから離れてしまう」

 保存会の伊藤克明会長(64)は昨年度、花の舞をどうしても踊らせたかった。祭りの担い手に成長していくうえで欠かせない出発点だからだ。コロナ禍で2020年度は祭りが中止。昨年度は神事と、舞いの一部だけは披露できた。

コロナ禍が集落に落とした影

 今年度も祭りは非公開として、町外に住む舞い手の多くには参加を遠慮してもらった。「コロナ前のように公開の形で」「こんな時期に開催するのは危険ではないか」。区民が議論を尽くした末の結論だった。

 山あいにある人口100人ほどの足込でも、高齢化と過疎化による担い手不足は深刻だ。祭りの規模を縮小して負担を減らす工夫を重ねる一方、地区にルーツのある子どもたちに舞い手として参加を呼びかけてきた。伊藤さんは「先輩たちがつないできた祭りをどうやったら続けられるか考えて、やれる方法に変えてきた」と振り返る。

愛知県の山あい、奥三河地方に700年以上前から伝わるとされる「花祭」。過疎による担い手不足やコロナ禍に直面しています。受け継がれてきた志を絶やすまいと、地元の若者たちが立ち上がりました。

 当たり前に花祭ができない期間が3年に及ぶ中で、地元には新たな動きも出てきた。

 音頭を取ったのは、伊藤さんの三男、拓真さん(27)。花祭に対する住民の温度差が、コロナ禍でより浮き彫りになったと感じていた。「『やりたい人がやるお祭り』ではなく、『地域のお祭り』という思いをもっと共有したい」

 7年ほど前に名古屋の大学を中退し、いまは町の観光協会に勤める。母校の小学校が廃校になり、「このままでは花祭が途絶えてしまう」という思いが芽生えて、Uターンを決めた。

 花祭を守ることは、自分たち…

この記事は有料記事です。残り530文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

春トク_2カ月間無料