連載「それでも、あなたを」ミャンマー・マレーシア編①
行こうか、やめようか。
2022年5月、ラフマトゥ(19)は迷っていた。
スマートフォンで話をしただけだけれど、ラフィク(26)は優しそうな人だ。
彼の住むマレーシアには大好きな姉もいる。
でも、と思う。
ここからマレーシアまでの距離は、軽く2千キロを超える。パスポートもビザも持っていない。
つまりは密入国だ。
どんな危険が待っているか分からない。
行こうか、やっぱりやめようか――。
それでもこのときはまだ、あんなことになる、とまでは思っていなかった。
ミャンマー西部、ラカイン州の村に住むラフマトゥに縁談が舞い込んだのは、その年のはじめのことだ。
仏教徒が多いミャンマーにあって、ラフマトゥは少数派イスラム教徒のロヒンギャだ。
ロヒンギャの暮らしは、日に日に苦しくなっていた。
ブローカーの手引きで婚約者の彼のもとへ行くはずが、女性は暴力を受け、別のブローカーに売り飛ばされてしまいます。異変に気づいた彼は…
オンラインで初めて見た互いの顔
2017年、ミャンマー国軍…