第6回紛争研究者が読む最悪のシナリオ 政府が制御できない国民の愛国心

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聞き手・国末憲人
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 国際紛争に関する分析や提言を続けるシンクタンク「国際危機グループ」(本部ブリュッセル)は、2023年に世界で注目すべき紛争として、ウクライナに次ぐ2番目に「アルメニアとアゼルバイジャン」を挙げた。紛争地ナゴルノ・カラバフを巡る両国の対立はそれほど、危機感をもって受け止められている。どこに原因があるのか。どこに向かうのか。旧ソ連の紛争研究を専門とする同志社大学の富樫耕介准教授(38)に聞いた。

 ――ナゴルノ・カラバフを巡る対立の起源はどこにあるのでしょうか。

 両国の政治家に言わせると「元々住んでいたのは誰か」とか「古代国家はどうだったか」といった話になるのですが、領域が明確でないのに国家や民族の認識がどれほどあったのか、その後その認識が住民にどれほど受け継がれたのか、確かではありません。この地域で近代的な領域主権国家をつくる試みが生まれたのはロシア革命以後で、それまであったのはある種の緩やかな地域概念でした。その後、モスクワの政権の意向や対トルコ関係などの要素が複雑にからみあって、みなが納得はしていないものの妥協の産物として、ナゴルノ・カラバフ自治州がソ連時代にアゼルバイジャン領内に設置されました。

 アルメニア、アゼルバイジャンのいずれに属そうとも、当時は同じソ連の中でした。ところが、1980年代以降にペレストロイカの流れの中で双方に急進的な政治勢力が生まれ、過激な主張をし、人々を動員するようになりました。そこでソ連が崩壊します。国家の解体と新国家の創設、ナショナリズム、歴史認識の再編といった要素が、この過程で一気に噴出したのです。その後戦争(第1次紛争)が起き、ロシアがアルメニア側を支援し、敗れたアゼルバイジャン側は、この問題で妥協することができなくなったのです。

 解決策がなかったわけではなく、共同国家や領土交換などの案が出されたこともあります。ただ、どちら側も受け入れませんでした。

インタビューの後半では、富樫准教授が紛争再発の可能性や、考えられる「最悪のシナリオ」について分析します。

何もしなかったロシア 紛争再発の危険性

 ――今後、対立はどこに向かいますか。

 2020年に起きた第2次ナ…

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