千葉でニワトリ平飼い、健康志向の卵を 10個820円「食感違う」

斎藤茂洋
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 「コーケコッコー」。利根川のそばにある鶏舎で雄鶏が高らかに鳴く。雌鶏は「コッコッコッ」。千葉県我孫子市の恒川京士(あつし)さん(39)が経営する「おはよう農園」は、昔ながらの平飼いによる養鶏場だった。

 鶏たちは自由気ままに駆け回り、地面をつつく。砂浴びをして全身を清潔に保ち、日光浴をする。布をかけた箱の中で卵を産み、夜は止まり木で眠る。本来の習性に沿って生きている。

 平飼いの養鶏は全国でも珍しい。我孫子市がある東葛地域ではほとんど見かけないという。

 養鶏場の多くはケージ飼いを採用している。重ねたかごに入り、数万単位で飼育する。千葉県によると、県内は採卵養鶏の大規模化が進み、飼育数は全国2位の約1047万羽。106戸が経営し、1戸平均で約10万羽を飼っている。

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 愛知県出身で名古屋の塗料メーカーに勤務し、中国への出張もこなす営業職だった。商品を説明する時、生産過程を十分に知らないことにジレンマがあった。「いずれは何かを作って売りたい」と考えていた。

 京都の大学で陸上競技に取り組み、運動に関心があった。妻の妊娠と出産を通して、「体をつくるのは食べ物」と改めて意識した。長時間の通勤もストレスで、ピリピリしていた。「自分が気分よく過ごさないと、家族にも迷惑をかけてしまう」。時間を調整できる農業にたどり着いた。

 我孫子市は人にも土地にも、つてはなく、子育て環境の良さで決めた場所だった。実家は農家ではない。「本当の新規就農。逆に強みにしよう」。まず野菜作りを始め、「誰もやっていないことにやりがいを感じる性格」と養鶏を選んだ。

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 鶏舎の建設費がなく、資金はクラウドファンディングで募った。「希望する額に達しなくても、平飼いを始める宣伝になれば」と思っていたが、すぐに目標を上回る額が集まった。

 寄せてくれたのは以前の勤務先の上司や同僚、子どもが通う保育園の関係者だった。見ず知らずの人もいた。「絶対成功させなければ。何としてもお客さんに卵を届けたい。後には引けない」。覚悟を決めた。

 鶏舎は木造で耕作放棄地に建てた。壁を網張りにして開放型にし、土の上にもみ殻を敷く。冬は北風が吹き込み、夏は気温が上がる。「寒さと暑さに耐えて体力と免疫力を高めてもらうんです」。2020年秋にひよこを育て始め、21年春から卵を販売した。

 床面積は約100平方メートル。3部屋に300羽の雌と12羽の雄が暮らす。えさは県内産のコメと小麦、米ぬか、かき殻を混ぜ、自然発酵させた。配合飼料は使わず、着色料も入れない。病気になりにくくなり、薬に頼らなくて済む。

 卵の生産量は冬だと1日あたり約80個。「光と風のたまご」と名付けた。値段は10個で税込み820円。「生臭くなくて、香りがいい。調理すると食感が違う」と感想が届いた。販売先は半数が家庭向け、残り半分が菓子店や飲食店、小売りで、我孫子市内に限り配送もする。

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 鶏の育て方を大事にする平飼いは、家族との生活と重なる。都内の会社で働く妻(40)と長女(8)、長男(4)、次女(1)の5人暮らし。養鶏の作業時間を調整して育児をする。

 農園の名前の由来は「おはよう」と言える朝を迎えられることに感謝し、何げない日常を大切にしたいという思いを込めた。「食事は元気の源。一日の始まりにウチの卵や野菜を食べて元気に過ごしてほしい」

 今年は鶏舎を増やし、鶏の飼育密度をさらに下げる。えさの穀物を米に限定することも挑戦したい。小麦を避けたい消費者に応えるために、地元の米農家と協力して新たな卵の生産に取り組むつもりだ。「この地域で循環をつくり、持続可能な農業ができないか」。模索の一年にする。(斎藤茂洋)

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「帰宅部」だった高校3年のとき、体育祭の中距離走で運動部員に勝った。気分をよくして、大学で初めて陸上部に入った。種目は800メートルと1500メートル。「誰もやりたがらない競技です」と笑う。

 ランニングは社会人になっても続け、今は週1回ほど。我孫子市内の手賀沼や利根川の周辺をコースにしている。風に揺れる水面の波を見ながら走るのが気に入っている。

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