沖縄返還交渉で佐藤栄作首相の密使を務めた国際政治学者、若泉敬氏の過去を物語る数々の史料が見つかった。返還後の沖縄に米国が緊急時に核兵器を再び持ち込むことを認める密約を首脳会談で交わすシナリオなどの史料を、若泉氏ゆかりの人々や専門家と読み解き、人物像に迫る。
今も一線で沖縄返還交渉を研究する河野康子・法政大学名誉教授(76)に取材した話を続ける。
佐藤栄作首相とニクソン大統領の日米両首脳は沖縄の1972年返還を決めた69年の会談で、返還後の沖縄へ緊急時に核兵器再持ち込みを認める「合意議事録」にひそかに署名した。民主党政権下の2009~10年に日米密約調査のため外務省が設けた有識者委員会は、その合意が「必ずしも密約とは言えない」との結論を出した。
河野氏は委員会に参加し、この調査の中心だったが、22年12月に取材すると「密約かどうかを判断する史料が十分ではなかった」と話した。最近発見した文書に、再考を迫られたのだという。
外務省が毎年末に公開する外交記録で、19年に開示した中にその極秘文書が含まれていた。「事前協議における諾否の予約と主権の問題」という題の3枚紙で、「7月30日大臣ブリーフ用に作成(大臣、北米、条約局長)」とある。
69年のこの日午後、来日中のロジャース国務長官と愛知揆一外相が外務省で会談。そこで日本の立場を明確に示すために、アメリカ局と条約局で練ったものとみられる。
事前協議とは、60年の日米安全保障条約改定の際に両政府が設けた制度だ。米軍が日本国内の基地を使うにあたり、①配置の重要な変更②核兵器を含む装備の重要な変更③日本防衛以外のための戦闘作戦行動において、日本との事前協議を米国に義務づけている。
河野氏が気づいたこの文書には、「沖縄返還交渉において、わが方が事前協議の諾否を、場合のいかんにかかわらず、米国との間にあらかじめ約束することはできない」とある。米国は沖縄で、米軍統治下の当時のような基地の自由使用を返還後も続けたいとこだわっていたが、それをきっぱりと断る主張だ。
日米安保 事前協議制度の「理念」とは
公開された極秘会談録による…
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日米安保の歴史は二重帳簿の歴史でもある。それがすぐれて現在の問題でもあるのは、日米安保が憲法9条とあわせて、戦後日本の国のかたち(そう言いたければ9条=安保体制という「国体」)をなしているからだ。 第一次大戦後にウィルソンが掲げた公開
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沖縄返還の首相密使、若泉敬氏の直筆とみられる文書の発見を機に続けてきたこの連載、最終回です。見出しにあるような問題意識は、岸田内閣の発足から一年数カ月を見る限りほとんどありません。今回の日米首脳会談でもそうでしょう。 岸田首相は広島サミ