田辺聖子「私的生活」今読むとゾクゾクするわけ 自由も孤独も「私」

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河合真美江
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 久しぶりに読み返して、ゾクゾクッとした。田辺聖子(1928~2019)の恋愛小説の代表作である乃里子3部作だ。『言い寄る』『私的生活』『苺(いちご)をつぶしながら』は、画家でデザイナーの玉木乃里子がままならない恋をし、お金持ちのぼんと結婚、そして離婚し、シングルライフを選ぶ女性の生き方を描く。なかでもコワいのは、甘やかな結婚という名の下で絡め取られる「私」を描いた『私的生活』である。

 3部作が書かれたのは70~80年代。仕事も恋愛も楽しみ、自分の足で歩む女性を田辺は多く描いた。30代の乃里子もそのひとりだ。

 だが、乃里子は気づく。海の見える神戸のマンションで夫、剛の機嫌をとり、快楽と思える日を送りつつ、「私」が侵されていることに。

 田辺自身、「乃里子は仕事を持ち、夫も愛していますが、その夫に『私的生活』の部分まで吸い取られていると感じたとき、彼女は別れる決心をする。というより、妻が夫を捨てます」(週刊朝日、02年)とズバッと語っている。

 07年に3部作の復刻を手がけた講談社の編集者、緑川良子さん(51)は「人間の尊厳が描かれている」と話す。

 仕事を断り、個展も開かず、家族の食事会にやむなく参加する。「剛の描く円周の中で生きるうち、乃里子の意思はないがしろにされ、自分を一時なくしたのです」

記事の後半では、田辺作品を愛読してきた作家の川上弘美さんの読み解きも。

 それは自尊心を粉々にされて…

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