一冊の本でつながった物語 亡き姉から届いたサイン、著者に贈る言葉

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若松真平
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 「エンド・オブ・ライフ」

 ノンフィクション作家の佐々涼子さんが、2020年に出版した本のタイトルだ。

 在宅での終末期医療を7年にわたって取材し、「理想の死の迎え方」に向き合った作品。

 福島県いわき市に住む「ぴの」さん(45)にとって、大切な一冊だ。

 昨年12月、佐々さんがツイッターで悪性脳腫瘍(のうしゅよう)を公表した時にはショックを受けた。

 生と死を取材してきた大好きな作家が、自身の病と向き合うことになるなんて、と。

    ◇

 3姉妹の末っ子だったぴのさん。

 2017年10月、年が4歳離れた一番上の姉が亡くなった。

 がんと診断されてから約10カ月間の闘病を経てのことだった。

 病院に見舞いに行くと、姉は「ごめんね、心配かけて」「みんな仲良くしてね」といった言葉ばかりを口にした。

 読書家だったが、亡くなる数カ月前には「内容が全然入ってこないんだよ」とぼやいていた。

 ほぼ毎日のように面会に行ったが、亡くなってから残ったのは後悔ばかり。

 抗がん剤治療の日は付き添って、少しでも不安を和らげてあげればよかったのに。

 自分の話ばかりせずにもっと姉の気持ちに寄り添って、何を望んでいるのかを聞けばよかったのに、と。

亡くなる2カ月ほど前に

 数ある後悔の中で、ふとした時に思い出すのが、亡くなる2カ月ほど前の出来事だ。

 姉の希望で退院し、両親と1週間ほど過ごしたことがあった。

 体調はあまり芳しくなく、「次に入院する時は緩和病棟も視野に入れて」という状況だった。

 いつも気丈に振る舞っていたが、両親に甘えたかったのかもしれない。

 その1週間のうちの1日、ぴのさんともう一人の姉も加わって家族5人で過ごした日があった。

 久しぶりの家族だんらんは、思い出話で盛り上がった。

 晩ご飯を食べ終えたころ、冗談っぽく「このまま泊まっちゃおっか?」とぴのさんが言った。

 姉は「そうしなよ、泊まろうよ!」とうれしそうだったが、実現しなかった。

 ぴのさんも2番目の姉も、家で待っている子どもたちのことを気にしていたからだ。

 今思えば、夫に「泊まってくるから子どもたちのことよろしく」とお願いすればいいだけだったのに。

 いや、心の奥底では弱っている姉の姿を見続けるのがつらかったのかもしれない。

 姉妹2人して迷った末、結局その日は帰ることにした。

 引き留められはしなかったが、姉は寂しそうな顔をしていた。

 その出来事から程なくして再入院。そのまま病院で亡くなった。

 「あの時泊まっていれば、思い出がまた一つ増えたのに」

 姉の寂しそうな顔を思い出すたびに、何度も後悔が湧いてくる。

「エンド・オブ・ライフ」との出会い

 しばらくして母も病に倒れ、父とぴのさんとで介護することになった。

 そんな時、書店で目にとまったのが「エンド・オブ・ライフ」だった。

 本の中でつづられている佐々さんの両親のエピソードに、自分の母の介護を重ね合わせて読んだ。

 終末期医療のくだりでは「可能なら姉の最期もこうしてあげたかったな」と思った。

 読了して「よりよく生きるために、いつか必ず訪れる死を思うことは避けられないんだ」と痛感した。

 前向きに死んでいく、という言い方は適切じゃないかもしれない。

 でも人は必ず死ぬんだから、より良く生きなくちゃという気持ちが強くなった。

 本のあとがきには、こんな文章が記されている。

 「身近な人がいなくなれば、世界は決定的にその姿を変えてしまう」

 「それでも不思議なもので、亡くなった人を今まで以上にとても近く感じる日もある」

 これらの文章について、ぴのさんには思い当たるエピソードがあった。

姉が亡くなって2週間後に

 闘病中の姉から「死後の世界はあると思う?」と聞かれたことがあった。

 ぴのさんは「あると思うし、生まれ変わりもあると思う」と返して、こう付け加えた。

 「もし私より先にお姉ちゃんが死んだら、何かのサインを使って『死後の世界はあるよ』と教えてね」

 姉からのサインが届いたのは、亡くなって2週間後だった。

 子どもが通っている学校のバ…

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