月5千円は「ばらまき」なのか 所得制限がもたらす「パラドックス」

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聞き手・杉原里美
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 東京都少子化対策として検討している0~18歳向けの毎月5千円程度の給付には、保護者の所得による制限を設けないという。一方、国の児童手当のうち、一定以上の所得がある世帯に月5千円が支給されていた特例給付は、昨年10月から一部の支給が廃止されている。児童手当制度に詳しい福井県立大の北明美・名誉教授に聞いた。

 ――所得制限を設けないという東京都の方針について、どう思いますか。

 小池百合子知事が、これは「ばらまき」ではないと言い切ったことは評価します。というのも、所得制限は、必要な人に効率的に支援するためにあるとは必ずしもいえないからです。対象を絞るためにかかる手間と費用や、今の生活状況ではなく、前年度、前々年度の所得で判断されるという不都合もあります。

 最も問題なのは、所得限度額が行政によって一方的に決定されたり、引き下げられたりすることです。そのため、収入が変わらないのに、あるいは下がる場合でさえも、限度額の引き下げで手当が受けられなくなるという事態も起こります。これは、(民主党政権時の)子ども手当より前、旧児童手当の時代に実際に起こっていたことです。

 「給付は平等に、所得に応じた負担は累進課税で」というのが本来の児童手当の考え方であり、そのほうが合理的ではないでしょうか。今回のような自治体の率先した動きが、その方向への足掛かりになってほしいと思います。

 ――国の児童手当では、所得制限で給付がなくなった子育て世帯から、不満や怒りの声が噴出しています。

 2020年11月、待機児童対策の財源にするため、児童手当の所得制限を強化して特例給付をなくすという政策が報道されると、反対の署名運動が立ち上がりました。にもかかわらず、2021年5月には、特例給付を受けていた子どもたちの約4割を不支給にすることが決まりました。さらに、同年12月、コロナ禍で子育て世帯へ子ども1人あたり10万円が給付された臨時特別給付金は、特例給付世帯すべてが対象外とされました。当事者にとっては、踏んだり蹴ったりです。

 ――児童手当に所得制限は必要なのでしょうか。

 先進諸国で、単純な所得制限…

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    末冨芳
    (日本大学文理学部教授)
    2023年1月15日11時53分 投稿
    【視点】

    「先進諸国で、単純な所得制限で児童手当を(略)完全に不支給にする国はありません」北先生も日本の異常さを指摘いただいています。 私が言いたいことの全てを北先生がおっしゃってくださっている重要インタビューです。 研究者として2021