94歳が市に1千万円寄付 「社会に還元する」過去には故郷に1億円
兵庫県宝塚市の住吉満さん(94)は昨年12月下旬、「高齢者福祉に役立ててほしい」と、市に1千万円を寄付した。2020年には1億円をふるさとの岡山県浅口市に、医療研究機関や福祉団体にも寄付をしてきた。「お金は社会からあずかったもの。社会に還元するのが自分の生き方」と話す。
アスファルト舗装、集合住宅の改修工事、ホームセンター……三つの会社を起こし、90歳になるまで経営に関わり続けた。売り上げがそれぞれ年数十億円規模になってからも、「従業員5人ほどの商店主のつもりで」と自らに言い聞かせ、華美な生活を慎んだ。
「岡山から裸一貫で出てきた田舎者にすぎない」。その思いが根底にある。
瀬戸内海に面する岡山県寄島町(現・浅口市)に生まれ、貧しい幼少期を過ごした。父は病気がち。母がミシンで服の仕立てをし、生計を立てた。太平洋戦争中、14歳で倉敷の軍需工場に働きに出ると、必要な金だけ手元に残し、母に仕送りを続けた。海軍に行った兄は戦死した。
戦争が終わり、兄の葬儀が済んだ1945年11月、知り合いを頼って17歳で大阪に出た。建築用壁材を製造販売する小さな会社で働きながら、夢を描いた。「いずれ、従業員を5人ほど雇う個人商店をもちたい」
社長の勧めもあり、29歳で起業した。独立に踏み出し、3社の経営を軌道に乗せられたのは社員や周囲の支えがあったからだ。45歳の時に高野山に1週間こもり、その考えはより深まった。「お金は人様がもうけさせてくれたもの。自分の力だけで稼いだと勘違いしてはいけない」。若い頃からの信念は今も変わらない。
浅口市では、名勝の松の木の再生や本州唯一のアッケシソウ自生地の保全活動に住吉さんの善意が活用されている。「人様に喜んでもらうことで自分に幸せが来るだろうと思っている」
卒寿を超えて長生きしているのも「自分の力ではなく、生かされているから」。社会への恩返しで人生を完結させたいという。(中野晃)
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