58歳の私が目指す定年後 お茶くみがラスボスに「これならいける」

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岡崎明子
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 還暦を前に、会社員のフミコさん(58)は高校時代の同級生と飲む機会が増えた。

 かつての「男子たち」からは、こんなセリフが漏れる。

 「社畜のように働いてきたから、そんなに定年後も仕事をしたいとは思わない」

 「なんだか居づらいから、嘱託で65歳まで働かなくてもいいかも……」

 フミコさんは思わず尋ねた。「何もやることがなくて、不安じゃないの?」

 しばらく間があってから、答えがあった。

 「いま、何かやりたいということはない」

 フミコさんは絶句した。

 仕事一筋で働いてきた人はある意味、会社に洗脳されている。だから、「自分は会社以外の仕事ができない」と思ってしまうのかもしれない。それでも、やりたいことがないなんて……。信じられない。

 フミコさんは2人の子どもを育てながら働き続け、いまは定年後のセカンドキャリアを模索する日々だ。

 その原点は、お茶くみとコピー取りしかさせてもらえなかった20代にさかのぼる。

 「英語で仕事をする」という夢をかなえるため、地方の高校を卒業後、上京して都内の大学に進学した。

 就職活動をしたのは男女雇用機会均等法が施行された翌年の1987年。だが、総合職の募集はほとんどなかった。下宿しているというだけで、門前払いする企業も多かった。

 30社ほど受け、ようやく総合商社の子会社に一般職として採用された。

 朝早く出社して、机を拭いて、灰皿を片付け、コピーを取って、「おじさま」方の好みに応じてお茶を入れる。

 「今では誰も信じないような仕事を、繰り返す毎日でした」

 ところがある日、チャンスが訪れた。

 当時、希望する社員を対象に…

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    岡崎明子
    (朝日新聞アピタル編集長=医療、科学)
    2023年1月19日16時41分 投稿
    【視点】

    男女雇用機会均等法の第一世代の女性はいま50代後半。正規雇用で働く55~59歳の女性は約100万人おり、多くの人が間もなく定年を迎えます。男性を前提に語られてきた定年が、女性にもかかわってくる時代の幕開けといえます。 とはいえ、この世代は

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    真鍋弘樹
    (朝日新聞フォーラム編集長=社会、国際)
    2023年1月19日17時54分 投稿
    【視点】

    記事に登場するフミコさんの言葉にドキッとしました。 ”仕事一筋で働いてきた人はある意味、会社に洗脳されている。だから、「自分は会社以外の仕事ができない」と思ってしまうのかもしれない。それでも、やりたいことがないなんて……。信じられない