「ポストBTSいない」 古家正亨さんの語るK-POPの「転換期」
韓流ファンで、「古家(ふるや)さん」の名前を聞いたことのない人は少ないだろう。ドラマ「冬ソナ(冬のソナタ)」ブームの真っ最中、日本から千人のファンが訪れた韓国ツアーでのペ・ヨンジュンさんのファンミーティング。「BIGBANG」や「KARA」「BTS」など、K-POPグループが日本デビューした際のショーケース。こうした韓流エンタメの日本進出の際の重要イベントのほとんどで、MCとして場を支えてきたDJの古家正亨(まさゆき)さんのことだ。そんな古家さんが、これまで目にしてきた韓流ブームの裏側や聴衆の変化、日韓のはざまで感じてきたジレンマまで、率直に語ってくれた。
――昨年12月、自伝的エッセー『K-POPバックステージパス』(イースト・プレス)を出されました。K-POPへの思いをつづっていますが、本を出すことには迷いもあったそうですね。
「僕はもともと肩書に『ジャーナリスト』と入れていたんですが、最近、それを外しました。ジャーナリストであれば、その分野において(権力を監視する)番犬になるべきだと思うのですが、僕はあまりにも(韓流エンタメの)業界の中に深く入り込みすぎてしまった。だから今回、本の依頼が来た時も、『スターの裏話を書いてほしいと言われても無理です』とお伝えしたんです。そうしたら編集者は、『古家さん自身について書いてほしい』と言ってくれた。考えてみたら、たしかに僕のような仕事をしている人って、ほぼいない。自分がこれまでやってきた仕事をまとめることで、韓流の創生期から今にいたるまでの歴史を描けるのではないかと思いました」
――本では、北海道のFMラジオ局「ノースウェーブ」で初めて韓国の曲を放送した時、歌手名を伏せて曲をかけた時は評判がよかったのに、韓国のグループだと明かしたとたん、ネガティブな反応が寄せられたという場面が紹介されています。韓流ブームに沸く今と比べると隔世の感があります。
「当時は韓国に対する先入観がとにかく強くて、予備知識がない状態では良い曲だと思っても、韓国と聞くだけで拒否反応を起こす人もいた。1990年代後半から2000年代の日本というのは、バブルは終わっていたけれど、まだアジアの中で自分たちが唯一の先進国で特別だというような意識や蔑視意識が潜在的にありました」
――そうした中で、新人DJだった古家さんは、まだ需要のなかったK-POPをラジオでかけ続けたそうですね。
「ラジオって、全く興味のないジャンルや意図しない楽曲との偶然の出会いみたいなものを与えられるチャンスがある。今も自分のメインの活動をラジオに置いているのは、いくら廃れたメディアだと言われても、その可能性に賭けているからです。僕はたまたま、カナダにいた時に、クラスメートだった韓国人留学生を通じて韓国の音楽に出会ったことで、人生が変わりました。その時、僕が感じたような衝撃を、僕がラジオで自分の言葉で紹介することによってだれかに与えられるんじゃないか。韓国の音楽を紹介することが、自分の使命なのではないか、と当時も今も思っています」
――留学から戻ってラジオDJとして復帰したのが1999年秋。その後、2000年に「BoA」がデビューし、02年に日韓のワールドカップ開催、03年に「冬ソナ」が大流行、とちょうど第1次韓流ブームが起きました。
「とにかくタイミングに恵まれていました。僕が98年に韓国に留学した時、将来ワールドカップがあることは知っていたけれど、日韓関係にどれだけ影響を与えるかなんて想像もしなかった。本当に偶然なんです。当時は韓国の音楽について専門知識を持っていて、韓国語ができて、しゃべる仕事に携わる業界人は皆無だった。韓流ブームが起きていく中で、第一人者なんて言われるようになりましたが、自分はそんな意識を持ったことはなくて、ただ好きでやってきた。本当に偶然、時代が追いついてきたというのが現実だと思います」
――空気が変わったな、と感じたのはいつくらいですか。
「冬ソナがNHKで放送されてから、ラジオのリスナーさんから寄せられるメールの種類ががらっと変わりました。それまでは批判的な人が多かったし、そもそも興味のある人からの反応しかなかったのが、『もっと韓国のこと知りたい』と女性からの反応がすごく来るようになった。その時に、『あ、今までと違う何かが始まった』ということは感じました。ただ、当時、自分が伝えたかった韓国の音楽の魅力というのはドラマのサウンドトラックでもなかったし、アイドルの音楽でもなかった。もっと音楽が好きな人に刺さる音楽で韓国の魅力を伝えたかったんですが、どうしても大衆的な部分にスポットが当たって、そちらの方にばかり関心が向かってしまう。そんなジレンマもありました」
90年代から日本における韓流ブームを眺め続けた古家さんの目に、これからのK-POPはどう見えているのか。記事の後半では、「転換期を迎えている」というK-POPのこれからや、アイドルを目指す人に考えてほしいこと、日本の音楽界への忠言まで、幅広く語ります。
――本では、10年にKARAの日本デビューで司会をしたところまでが描かれています。その後もBTSを始め、多くの歴史的場面に立ち会ってきた中で、この時期までにとどめたのはなぜですか。
「出版社からは現在までを書い…
- 【視点】
とても興味深いインタビューです。私もじつは最近、K-POPをよく聴いています。自然な欲求として、どうしても聴いてしまうのです。古家さんのNHKラジオ番組「POP☆A」のリスナーでもあります。もともと音楽は好きなので楽曲として良いものはなんで