思わず両手で包み込みたくなる、そのやわらかな外見。見込みに浮かびあがるのは蓮華(れんげ)座だ。してみると、中を飾る花は仏の立ち姿か――。
日本工芸会総裁賞を受賞した透網代花籠(すかしあじろはなかご)「朝露(あさつゆ)」は、静かなたたずまいのなかに敬虔(けいけん)さをしのばせている。
網代の器胎が縦ひごを連ねた深いえんじの衣をまとい、二重の立体感を形作る。わずかにカーブする口縁に誘われて中をのぞき込み、じっと目をこらすと、そこには控えめに咲くハスの花弁が。それを“発見”したときの見る者の驚きはいかほどだろう。この意外性が受賞をたぐり寄せたのも想像に難くない。
漆黒の竹にときおりきらめく光の粒が作品名の由来。かつて名だたる書家は、葉にたまった朝露を集め、それで墨をすったという。「黒地にキラッとした輝きがそれに見えてね」。竹工作家、河野祥篁(かわのしょうこう)さん(65)=大分市=は、そう語った。
基本に忠実、新しいことはしていない。しなやかな竹という素材は、やろうと思えばいくらでも複雑にできる。
けれど、「シンプル・イズ・ベスト。ヤボなことはせず、すっきりやる。余白を生かす、というのかな。それが僕のやり方」だそうだ。
本当は彫刻家になりたかった…