植物原料の民芸品「イジッコ」の灯は消えず 日光で継承
栃木県日光市三依(みより)地区などに伝わる植物材料の袋「イジッコ」。作り手の減少で消えゆく運命にあった民芸品が、一人の女性の熱意で守られた。地元の古老の手ほどきを受けながら、伝統の技を次代へとつなごうとしている。
材料はカヤツリグサ科の多年草ミヤマカンスゲ(岩芝)。切れにくく、水に強いため、縄にするのに適している。この縄を編んだ袋状のものがイジッコで、鎌やナタといった山仕事の道具や弁当箱、山菜などを入れる必需品だった。市内では編み物の跡が底に残る縄文土器も出土している。
地域おこし協力隊の林千緒さん(45)は、2019年度に日光市旧栗山村の地域おこし協力隊員になる前、近くの旧藤原町三依地区の公民館に飾られたイジッコを見て、その美しさに魅了された。「編み目が細かく美しい。技術を学びたい」と思った。
だが、作者の男性はすでに他界し、市の文化財指定も解除されていた。いったんは諦めた林さんだったが、伝統野菜の栽培など隊員の活動を始めてまもなく、イジッコに似た手提げを持っていた女性に偶然、出会った。林さんが「それはイジッコですか」と聞くと、「そう、自分で作った」という。
女性は湯西川地区に住む阿部征子さん(79)。三依地区で生まれた。阿部さんの父親は、林さんが最初に見た作品を作った男性の師でもあった。県内では「最後の一人」ともいえる技術の継承者の阿部さんに林さんは入門を願い出た。自宅に通い、まずは縄のより方を覚えた。ビニール製の荷造りひもを使って繰り返し練習した。
歴史的に生活・文化面の結びつきが強い福島県会津地方にも、同じ呼び方をする民芸品がある。林さんは会津中西部の三島町の教室でも技を磨いた。阿部さんの教えを受けるようになって4年目の昨年夏、ミヤマカンスゲを材料にした本格的なイジッコ作りを認められ、いま本腰を入れている。
林さんによると、材料はシカの食害で減っている。8月末から9月上旬の短期間に刈り、水洗いして1カ月から半年以上陰干しする。乾燥した葉を裂いて縄をよるが、手提げやかごを一つ編むのに数カ月かかるという。
林さんは「形や見た目の素朴なところにひかれます。自然の中で自然とともに生きる。そんな私たちが忘れてきた本来の暮らしが表れている気がします」と話す。
林さんの協力隊員としての任期は来年3月までだが、その後もイジッコ作りは続けたいという。「広く知ってほしいので、装飾品などの小物も試作しています。この地に住み続け、技術を受け継ぐ人を増やしていきたいですね」(中村尚徳)
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