ショーウィンドー埋めた付箋386枚 洋菓子店主が閉店後に流した涙
「突然ではございますが、営業を終了させていただきます」
「いずれまたどこかで私どもの菓子を召し上がっていただける場をつくりたいと思っております」
大阪市北区の天神橋筋商店街にあったフランス菓子工房「ムーラタルト」。
オーナーシェフの吉野暢人(のぶと)さん(55)は昨年11月、ショーウィンドーに閉店のお知らせを貼った。
ショーウィンドーに貼られたメッセージとは
閉店後、「ムーラタルト」のショーウィンドーに、メッセージが書き込まれた付箋が大量に貼られました。オーナーシェフ夫妻を驚かせた、そのメッセージとは……。
1999年5月28日に開店し、5年ほど前まで順調に売り上げを伸ばしていた。
「この調子だと、先は明るいな」
そう思っていた矢先、熟練したスタッフたちが「さらに上を目指して修業したい」などと言って辞めていった。昨年から、作り手が自分一人になることもあった。
店頭の販売スタッフがいない時間帯はそちらにも手を取られ、生産効率は落ちていった。
募集しても新しい人が入ってくる気配はない。開店準備が遅れて、店を開ける時間がどんどん遅くなっていった。
体力的にきつくなり、疲れもたまっていった。一人で頑張って店を回しても、売り上げが伴わず、先々の見通しが立たなくなった。
妻の満美さん(55)にも「このままじゃ体がもたないよ」「もう十分やったからいいじゃない」と声をかけられた。
これ以上、傷口を広げたくないと、店をたたむ決断をした。
店を閉めた後も師走の商店街に毎日、片付けに通った。
閉店から2週間後の12月中旬の朝。
店の前に自転車を止めたときに、ふと、ショーウィンドーに付箋(ふせん)が数枚貼られていることに気づいた。
「次のステップがんばって下さい」
「23年間おつかれ様でした! 応援してます」
翌日以降、誰かが置いていった残りの付箋とペンを使って、感謝やねぎらい、惜しむ声が次々と貼られていった。
ありがたい気持ちの一方で、片付けで店に出入りするのは照れくさかった。
本当に店を閉めてしまったという実感も湧いてきた。「なんとか(応援の)声にこたえないと」という次への責任も感じた。
このまま放っておくのも「申し訳ない」と思い、付箋の隙間に「返信」を貼った。
「思いもよらなかった皆様からのたくさんのメッセージ、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。次のステージでお礼の気持ちをお伝えできればと思っております」
「甘い幸せ ありがとう」
付箋は増え続けた。
「家族とのだんらん、職場の…
- 【視点】
そこにあることが当たり前に思える、頭に浮かぶご近所のあのお店でも、今日もありがとうと今度行った時に伝えてみよう。そう思いました。 ネット販売だってできるのに、「また【場】をつくりたい」という吉野さんの言葉から、このお菓子屋さんが交わし