第6回原発回帰は「二重三重に間違い」 事故当時の首相、菅直人氏の指摘

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聞き手・佐々木凌 今泉奏
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 2011年の東京電力福島第一原発事故を教訓に定められた、原発の運転期間を原則40年、最長60年とする規制ルールが変わろうとしている。60年超運転が可能になる一方、原子力規制委員会は運転開始30年から10年ごとに安全審査をする方向だ。現行ルールが変わることについて、事故当時に首相だった菅直人氏(76)に聞いた。

 ――運転延長や新増設など、岸田政権が「原発回帰」の姿勢を鮮明にしています。原発事故当時の首相として、どう見ていますか。

 「福島原発事故以降、原発は基本的にはなくしていこうという方向を決めたはずなのに、それと全く矛盾、逆行している。根本的に間違っているというのが、私の基本的な考えです」

 「事故対応の中で、『日本沈没』という映画のように全員が日本から逃げていくことを想定しました。関東全部から人が逃げるとなったら、日本は少なくとも30年は壊滅状態になる。だから私は東電に撤退するなと言って押しとどめたわけです。事故の後は、多くの国民が原発がなくても済むならなくしたいと思ったわけです」

 かん・なおと 1946年生まれ。70年東京工業大学理学部卒。71年弁理士試験合格。市民運動を経て、80年に衆院議員に初当選。96年の民主党結成に参加。政権交代後の2009年に副総理に。10年6月に首相に就任し、東日本大震災・福島第一原発事故の対応に当たった。11年9月に退任。現在は立憲民主党の最高顧問。東京18区。当選14回。

原発を持つことはリスク

 ――政権は、ロシアのウクライナ侵攻を背景に、エネルギーの安定供給の観点からは原発が必要だと説明しています。

 「ウクライナを考えれば、逆でしょう。ロシアが原発を攻撃している。今のところ、直撃弾が原発を破壊するところまでは来ていませんが、いつそれが起きてもおかしくない状況にあります。原発を国内に持つということは、安全保障上においても極めて大きなリスクです。日本では原発は海沿いに設置されています。攻撃された場合、原発事故ではない形で、しかし場合によればそれ以上の被害を、日本がつくった原発で日本が受けるかもしれない。しかし、そのリスクについては議論をちゃんとしないまま、原発をゼロにしていくという方向から逆に行こうとしている。大間違いです」

 ――原則40年最長60年の原発の運転期間について、政府は再稼働に必要な審査などの期間を除外することで延ばす方針です。原子力規制委員会は「運転期間については利用側で決めることで、意見を述べるべきではない」として、異を唱えませんでした。どう考えますか。

 「もともとは規制委が独立性をもって議論すべきことです。規制委は経済産業省の下請けではないのだから、政府が何を言おうが、規制委員会の基本に立って、物事をやればいい。そのために独立性の高いものをつくったんですから」

 「福島原発事故当時は、原子力の規制を、推進派の経産省がやっていて、中立的ではなかった。二度と福島原発事故のような事故が起きないように、経産省や電力業界から独立した形で物事が決められるように、公正取引委員会と同じ3条委員会にしたわけです」

 ――規制の独立性が損なわれているのではないかという声もあがっています。

 「自民党も当時は独自性の高…

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